吉田安三郎

日本の都市計画、建築行政、および学術分野で多大な功績を残した吉田安三郎（よしだやすさぶろう）は、1904年（明治37年）1月14日に大阪市で生を受け、1972年（昭和47年）4月20日にその生涯を閉じた。彼は戦後日本の住宅問題と都市基盤整備において中心的な役割を果たした人物の一人である。

東京帝国大学工学部建築科を1929年（昭和4年）に卒業後、ただちに内務省大臣官房都市計画課に入省し、官僚としてのキャリアを歩み始めた。キャリアの初期から、彼はドイツの法制度や都市形成に関する「ジードルンク」などの文献に深く関心を持ち、翻訳などを通じて都市運営や計画に関する国際的な知見を精力的に吸収し、研鑽を積んだ。その後、1932年には警視庁保安部建築課、1935年には神奈川県警察部建築工場監督課へと移り、建築に関する行政実務の経験を積み重ねていった。

1940年（昭和15年）、吉田は都市計画東京地方委員会に転属し、大規模な都市計画事業に携わることになった。ここでは、前任者が着手していた東京区部西南部の空地地区第一次指定を引き継ぎ、その範囲を区部周辺全域、内部区の一部、さらには当時の都下都市計画区域全体に拡大して用途地域および空地地区指定を完了させるという重要な役割を果たした。同時に、彼は市街地の地区分類方法として独自の「建築成団」という概念を提唱し、建築の様態に基づいた都市構成の分析や、将来的な都市改造の方向性に関する研究に熱意を注いだ。理論的な理想像を追求しつつも、それを現実の社会でいかに実現するかというプロセスを常に重視する実務家肌であった。また、1941年には日本生活科学会内に設けられた国民標準住宅分科会のメンバーとしても活動した。

第二次世界大戦終結後の混乱期、吉田は日本の復興に尽力する。1945年（昭和20年）12月には戦災復興院計画局建築課に勤務し、焼け野原となった都市の再建計画に関わった。その後、特別建設部設備課長（1946年5月）、特別調達庁契約局工事部長（1947年8月）を経て、1948年（昭和23年）4月には建設院（後の建設省）建築局指導課長に就任し、戦災復興都市計画における基礎的な指導を担当した。同年9月には郷里である大阪府に赴任し、建築部長として約7年間にわたり大阪の復興建築全般の指導に渾身の力を注いだ。この間、長年の研究成果を集大成した論文「大阪市に於ける標準的建築成団とその建築態様に就いて」を完成させ、1955年（昭和30年）10月、工学博士の学位を取得した。

1955年（昭和30年）、戦後日本の住宅不足解消を使命として設立された日本住宅公団において、吉田は初代の計画担当理事に就任する。以後8年間にわたり、彼は大規模な住宅団地の造成、中高層集合住宅の建設、さらには商業施設などを併設した複合的な市街地住宅の開発といった、新開発と再開発の両面における計画および建築指導の中心的役割を担った。特に、都市の不燃化を進めるため、鉄筋コンクリート造などによる本格的な都市構造の実現に全力を傾け、多くのプロジェクトを実現させた。公団での彼の指導力と業績は極めて高く評価され、団地建設の開発・向上に関する貢献に対し、後に日本建築学会から建築学会賞が公団の技術部門に授与されている。

日本住宅公団を退任した後も、吉田は精力的に活動の場を広げた。1963年（昭和38年）10月からは塚本不動産取締役副社長、1965年（昭和40年）1月からは八千代エンジニアリング専務取締役に就任するなど、民間不動産やエンジニアリング分野で経営に参画した。また、海外技術協力事業団の参与として、日本の技術を海外に伝える活動にも貢献した。1966年（昭和41年）1月には鹿島建設の常務取締役に迎えられ、その後、常任顧問も務めるなど、日本の大手建設会社においても重責を担った。1971年（昭和46年）7月からは東亜不動産の取締役も務めるなど、引退後も多方面でその経験と知識を活かした。

吉田はまた、学術団体においても重要な役割を果たした。日本建築学会では1956年から1969年にかけて理事や監事を歴任し、特に1963年から1967年までの4年間は副会長を務めた。日本都市計画学会においては、4年間の副会長経験を経て、1967年5月から1969年5月までの2期にわたり会長職を務めた。会長として、彼は長年にわたり学会が目標としてきた社団法人化の実現に向けて並々ならぬ努力を払い、これを成就させたことは、同学会の発展における彼の最大の功績の一つとされる。これらの学会活動を通じて、彼は多くの後進の指導・育成にも尽力した。

生涯を通じて、吉田安三郎は都市計画家、建築官僚、実務家であると同時に、研究者、経営者、教育者という多角的な視点を持ち続けた。理論に基づきつつも常に現実を見据え、戦後日本の都市環境と住まいの質の向上に献身的に貢献した功績は大きい。1972年（昭和47年）、その功績が称えられ、正四位勲三等旭日中綬章が追贈された。

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