吉見百穴

吉見百穴：古代の集合墳墓と貴重なヒカリゴケの自生地

埼玉県比企郡吉見町に位置する吉見百穴（よしみひゃくあな/よしみひゃっけつ）は、古墳時代後期に作られた横穴墓群の遺跡です。凝灰岩の岩山に無数に穿たれた穴は、異様な景観を呈し、訪れる人々を魅了します。現存する219基の穴は、その規模において日本最大級を誇り、1923年（大正12年）には国の史跡に指定されました。

「百穴」の読み方

吉見百穴の読み方には、「ひゃくあな」と「ひゃっけつ」の2種類が存在します。地元では「ひゃくあな」と呼ばれることが多く、吉見町の公式サイトでもこの読みを採用しています。一方、文化庁の「国指定文化財等データベース」では「ひゃっけつ」とされています。また、天然記念物である「吉見百穴ヒカリゴケ発生地」は「ひゃくあな」と読むなど、読み方が混在しているのが現状です。

特徴：集合墳墓と追葬の痕跡

吉見百穴の穴の入り口は直径1メートル程度ですが、内部はもう少し広くなっていることが多いです。これらの穴は、古墳時代後期（6世紀-7世紀頃）に造られたもので、他の古墳とは異なり、岩山の表面から横穴を掘って造られた集合墳墓です。多くの穴には古墳と同様の台座状構造があり、棺桶を安置したと考えられています。複数の台座がある穴もあり、家族単位で埋葬されたことを示唆しています。また、穴の入口周囲には段差状の構造があり、緑泥片岩で作られた板状の蓋がはめ込まれていました。これは追葬を可能にするための工夫と考えられています。穴の並び方は場所によって整然としている箇所と不規則な箇所があり、不規則な箇所は比較的初期に、整然と並んでいる箇所は後期に造られたと考えられています。

ヒカリゴケの自生地

岩山の下方には、ヒカリゴケが自生している穴があります。関東平野におけるヒカリゴケの自生地は非常に貴重であり、「吉見百穴ヒカリゴケ発生地」として国の天然記念物に指定されています。近年、乾燥化によりヒカリゴケが減少したため、水を満たした鉢を置くなどの保存対策が行われています。

発掘の歴史と論争

1887年（明治20年）、東京大学の坪井正五郎によって吉見百穴の発掘調査が行われました。坪井は当初、横穴を住居とする説を唱えましたが、後に白井光太郎らによって反論され、横穴は墓であるという説が有力となりました。この論争は、日本考古学史における重要な出来事として知られています。

地下軍需工場跡

太平洋戦争中、岩山の下には中島飛行機の地下軍需工場が建設されました。その際、岩山の最下部にトンネルが掘られ、吉見百穴には3か所の坑口が設けられました。また、工場用地を確保するために河川改修も行われ、その際にいくつかの横穴が破壊されました。現在、軍需工場跡への立ち入りは禁止されています。

ロケ地としての活用

吉見百穴の異様な外観や軍用トンネル跡は、特撮番組のロケ地としてよく利用されています。仮面ライダーやウルトラマンシリーズなど、多くの作品に登場しています。

周辺情報

吉見百穴の近くには、同時代の遺跡である「黒岩横穴墓群」や、松山城 (武蔵国)があります。松山城を武田氏が攻めた際、「もぐら戦法」で地下から攻めようとしたという言い伝えがあり、吉見百穴を見た武田軍がこの戦法を思いついたという説もあります。

文化財指定

国の史跡：吉見百穴（1923年3月7日指定）
国の天然記念物：吉見百穴ヒカリゴケ発生地（1928年11月30日指定）

交通アクセス

東松山駅から川越観光バスで約5分、「百穴入口」バス停から徒歩5分
関越自動車道 東松山ICから約15分

吉見百穴は、古代の歴史と自然が織りなす貴重な文化遺産です。ぜひ一度、その目で確かめてみてください。

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