吉野太夫

二代目吉野太夫：島原を彩った名妓の生涯

慶長11年（1606年）、京都で生まれた二代目吉野太夫（本名：松田徳子）は、島原を代表する名妓として知られています。幼少期は遊女の世話をする禿（かむろ）として林家で育ち、「林弥」という禿名で呼ばれていました。14歳で太夫となり、その美貌と才能で瞬く間に名を馳せます。

類まれな才能と美貌

吉野太夫は、和歌、連歌、俳諧といった教養に加え、琴、琵琶、笙といった楽器演奏にも優れていました。さらに、書道、茶道、香道、華道、貝覆い、囲碁、双六と、多岐にわたる芸道に精通していたと言われています。18人の太夫による豪華な衣装を纏った集いでは、寝乱れた姿で現れたにもかかわらず、圧倒的な存在感を放ったと伝えられています。

その美貌と才能は国内にとどまらず、明国にも知れ渡り、「東に林羅山、西の徳子吉野」と称されるほどでした。後陽成天皇の皇子である近衛信尋や、豪商で文化人の灰屋紹益など、錚々たる名士たちが彼女の馴染み客だったと伝えられています。

灰屋紹益との結婚と晩年

寛永8年（1631年）、26歳の時に灰屋紹益と結婚しました。しかし、結婚生活は長くは続かず、寛永20年（1643年）、38歳でこの世を去ります。彼女は日乾上人に帰依しており、京都市北区の鷹峯にある常照寺に朱門を寄進し、自身もそこに埋葬されました。現在でも毎年4月第3日曜日に花供養が行われ、島原の太夫たちが参拝に訪れています。

慈悲深い心と数々の逸話

吉野太夫は、その美貌と才能だけでなく、慈悲深い心も広く知られていました。井原西鶴の『好色一代男』には、彼女に関する興味深いエピソードがいくつか登場します。

一つは、貧しい刀鍛冶の弟子が、彼女に会うために貯めた金を使い果たしてしまっても、吉野太夫が彼を哀れみ、思いを叶えさせたという話です。世之助はこれを「女郎のあるべき姿」と評しています。

もう一つのエピソードは、世之介との結婚を親族から反対された際の話です。吉野太夫は巧みな計略で親族を説得し、正式に結婚に至るというものです。これらの逸話は、彼女の人間性と知略の高さを示すものです。

吉野太夫を題材とした作品

吉野太夫は、多くの作品で取り上げられています。テレビドラマでは、『吉野太夫』（1970年、フジテレビ）、『武蔵 MUSASHI』（2003年、NHK）、『宮本武蔵』（2014年、テレビ朝日系列）など、数多くの作品で、様々な女優が彼女を演じています。

吉野太夫の遺産

二代目吉野太夫は、その美貌、才能、そして慈悲深い心で、多くの人々を魅了し続けました。彼女の生涯は、島原という遊郭の文化、そして寛永文化を知る上で貴重な資料となっています。彼女の名跡は、初代から10代目まで続いたと伝えられており、その名声は現在もなお人々の記憶に深く刻まれています。彼女の生き様は、後世に多くの影響を与え、現代においてもなお、研究・考察の対象となっています。彼女をしのぶ花供養は、今もなお、人々の記憶の中に吉野太夫の輝かしい生涯を繋いでいます。

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