名古屋丸

名古屋丸の概要

名古屋丸（なごやまる）は、戦間期から太平洋戦争にかけて活躍した日本の貨客船で、石原産業海運および南洋海運がその運航を担った。名古屋丸は、南洋鉱業が石原広一郎によって設立されたことから始まり、後に石原産業として知られるようになる。この会社は、マレー半島やオランダ領東インドからの鉄鉱石の輸入を行う事業を展開し、最初は傭船によって日本へ物資を運んでいた。

1929年、会社名が石原産業海運に変更され、海運業に本格的に参入。昭和金融恐慌が影響を及ぼす中で、船舶の購入を進め、1931年には定期航路の開設に向けて本格的な準備が始まった。こうして造られたのが名古屋丸とその同型船淨寶縷丸である。長崎の三菱重工業で1932年に完成したこの船は、すぐに蘭印航路に投入された。

航路競争とその影響

名古屋丸と淨寶縷丸の就航は、当時の日本および蘭印の海運業界に大きな波乱をもたらした。1914年から既に南洋郵船や大阪商船、日本郵船が蘭印航路での競争を繰り広げており、長い間続いていた運賃カルテルの中に、石原産業海運の割り込みは運賃水準を大きく変動させた。新たな船の投入により、同社は運賃を1割から2割も安く設定したことで、他の航路会社は焦りを見せ、最終的には政府の仲介でカルテルに加わることとなった。

しかし、石原産業海運はその後も独自の運用方針を維持し、複雑な国際的な抗争へと発展する事態を引き起こした。そして1935年に、国策会社南洋海運が設立され、名古屋丸もその所属となり、蘭印航路での運航を続けた。

軍への徴用と最後

1941年になると、名古屋丸は日本海軍に徴用され、特設潜水母艦として再登録された。竣工後は南方作戦に派遣され、数々の作戦行動を展開。その後、名古屋丸は特設航空機運搬艦に類別変更され、さらに多くの区域での行動が求められた。1943年12月、名古屋丸は護衛を受けながら外港に向かう航海中、アメリカの潜水艦「ヘリング」の攻撃に遭い、沈没する運命を辿る。名古屋丸は1944年1月1日に特設運送船へと類別変更されたが、実際にこの形態での運行期間は極めて短いものであった。

名古屋丸は太平洋戦争の最中にさまざまな形で日本の海運業に深く関与し、その運命を終えるのである。歴史の中で名古屋丸は、ただの貨客船ではなく、激動の時代の象徴となった。

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