吏部王記

『吏部王記（りほうおうき/りぶおうき）』は、平安時代中期の皇族である重明親王（醍醐天皇の第四皇子）が記した日記です。この日記は、当時の政治や儀式に関する貴重な情報を提供しており、歴史研究において重要な史料と位置づけられています。

書名の由来は、重明親王が式部卿という役職にあったことに因みます。式部卿の唐名である「吏部」から『吏部王記』と名付けられました。また、本書は『李部王記』、『吏部記』、『李部記』、『重明親王記』、『重明記』、『重記』など、複数の異なる表記で伝えられています。

現存する『吏部王記』は、残念ながら逸文（一部分のみが残ったもの）という形でしか残っていません。しかし、これらの逸文を収集・分析することで、延喜20年（920年）正月14日から天暦7年（953年）2月23日までの約34年間にわたって記録が続けられていたことが判明しています。ただし、これはあくまで逸文から推測された範囲であり、正確な記録期間は不明確なままです。

日記の終了時期とされる天暦7年2月23日は、重明親王が亡くなる1年6ヶ月前です。同時代の公卿で親王の義理の父でもある藤原師輔は、亡くなる2日前まで日記を書いていたことから考えると、重明親王も亡くなる直前まで日記を記録していた可能性が高いと考えられます。実際に、『北山抄』には「見吏部王（重明親王）天暦七年菊合日記」という記述があり、天暦7年の菊合わせの宴が10月13日に行われたことが記されています（『古今著聞集』）。これらのことから、重明親王は天暦7年10月13日まで日記を書いていたと考えられますが、最終的な記録の終わりは特定されていません。

『吏部王記』は、その重要性から、いくつかの研究者によって活字化され、出版されています。主なものとして、古代学協会編『吏部王記』（史料拾遺3、臨川書店、1969年）や、米田雄介・吉岡真之編『吏部王記』（史料纂集、続群書類従完成会、1974年）が挙げられます。これらの書籍には、現存する逸文が収録されています。また、『吏部王記』の読み下し文は、国際日本文化研究センターの「摂関期古記録データベース」で公開されており、研究者は容易にアクセスすることができます。

このように、『吏部王記』は、平安時代中期の政治や文化、そして重明親王の日常生活を垣間見ることができる貴重な史料であり、歴史研究において重要な役割を果たしています。

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