重明親王

重明親王（しげあきらしんのう）

重明親王は、平安時代前期から中期にかけての皇族です。醍醐天皇の第四皇子として生まれ、初めは将保（まさやす）と名乗っていました。後に重明と改名し、三品・式部卿という官位にまで昇りつめました。式部卿の唐名である吏部王とも呼ばれています。

生涯

延喜8年（908年）に親王宣下を受け、皇族としての道を歩み始めました。延喜11年（911年）には、兄弟とともに改名し、重明と名乗るようになります。延喜21年（921年）に元服し、成人としての仲間入りを果たしました。

重明親王は、皇位継承の有力候補として名前が挙がることもありました。延喜23年（923年）には兄の保明親王、延長3年（925年）にはその子の慶頼王と、春宮（皇太子）が相次いで亡くなったため、次の春宮に立てられた弟の寛明親王はまだ幼く、さらに延長5年（927年）には長兄の克明親王も亡くなったため、一時的に重明親王が皇位継承者として注目されました。しかし、最終的には皇位を継承することはありませんでした。

醍醐朝末期の延長6年（928年）には上野太守に任官。朱雀天皇の即位後まもなく弾正尹、承平7年（937年）には中務卿を歴任し、天慶6年（943年）には三品に叙されました。村上朝では式部卿を務めるなど、要職を歴任しました。

天暦8年（954年）9月14日に薨去。享年49歳。

人物

重明親王は、皇位を巡る争いとは無縁の人生を送りましたが、その一方で学識豊かで、音楽の才能にも恵まれた風流人として知られています。父である醍醐天皇は、崩御の際に重明親王と代明親王を呼び寄せ、遺言を託したとされています。また、異母弟である村上天皇からも信頼が厚く、宮中での管弦の宴などでは、和琴や笛の演奏に必ず参加していました。

摂関家との関係も良好で、太政大臣・藤原忠平の娘である寛子と結婚しました。寛子が亡くなった後、右大臣・藤原師輔の娘で、寛子の姪にあたる登子を後妻に迎えています。また、寛子との間に生まれた長女の徽子女王と次女の悦子女王は、相次いで斎宮に選ばれ、徽子女王は後に村上天皇に入内し、斎宮女御と称されました。

重明親王の日記である『吏部王記』は、残念ながら原本も写本も現存していませんが、後世の日記や書物に引用された逸文から、朝廷の儀式や典礼に関する詳細な記録が残されていたことがわかっています。この日記は、当時の朝廷の様子を知る上で非常に貴重な史料となっています。

逸話

重明親王には、以下のような一風変わった逸話が数多く伝えられています。

日輪が家に入り、金鳳が飛来する夢を見たことがあり、将来帝位に関わる兆しではないかと期待したという伝説があります。親王の邸宅は、後に藤原兼家に伝領され、東三条殿と呼ばれました。
ある時、渤海からの使者が訪れた際、重明親王が鴨毛の車に黒貂の皮衣を八重にも重ねて着ていたため、使者たちが大いに恥じ入ったと言われています。このエピソードから、重明親王が風雅を愛する一方で、豪快な一面も持ち合わせていたことが伺えます。
東三条殿の庭園に、毎晩怪しい太った五位が現れるため、親王が陰陽師に占わせたところ、東南の隅から銅の提（ひさげ）が現れ、それ以降五位は姿を見せなくなったという話が『今昔物語』に収録されています。

官歴

延喜8年（908年）4月5日：親王宣下
延喜11年（911年）11月28日：将保から重明に改名
延喜21年（921年）11月24日：元服
延長6年（928年）正月29日：上野太守
延長8年（930年）12月17日：弾正尹
承平6年（937年）9月13日：見大宰帥弾正尹四品
承平7年（938年）正月10日：見中務卿
天慶6年（943年）：三品
天暦4年（950年）5月24日：見式部卿
天暦8年（954年）9月14日：薨去（三品式部卿）

系譜

父：醍醐天皇
母：源昇の娘
妻：藤原寛子（906-945） - 藤原忠平の娘
男子：源邦正（青侍従）
男子：源行正
男子：源信正（?-967頃）
女子：徽子女王（斎宮女御）（929-985） - 伊勢斎宮、村上天皇女御
女子：悦子女王（旅子?）（942-?） - 伊勢斎宮
妻：藤原登子（?-975） - 藤原師輔の娘
女子：祐子女王 - 藤原定子乳母、源助理室
女子：藤原朝光室
生母不明の子女
女子：麗子女王

参考文献

『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞社、1994年
古代学協会・古代学研究所（編）『平安時代史事典』 角川書店、1994年
『尊卑分脈 第三篇』吉川弘文館、1987年
宮崎康充編『国司補任 第三』続群書類従完成会、1990年

外部リンク

* 『摂関期古記録データベース』国際日本文化研究センター（『吏部王記』の読み下し文を公開）

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