向山宏

向山宏：東宝特撮映画を支えた伝説の合成技師

向山宏（むこうやま ひろし、1915年2月16日 - 没年不明）は、昭和期の日本映画界において、卓越した合成技術で数々の名作を彩った人物です。長野県出身の彼は、東宝映画を中心に、特撮映画の分野でその才能を発揮し、特に円谷英二との協働は、日本映画史における特撮技術の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと東宝入社

元々は着物の模様師という異色の経歴を持つ向山は、戦時下の国策によって職を失ったことが転機となり、映画界へと足を踏み入れます。美術学校に通っていた兄からの誘いがきっかけで、1940年（昭和15年）に東宝映画に入社。当初は絵描きの才能を買われ、美術担当から合成担当へと異動しました。1942年には合成技師として正式にキャリアをスタートさせ、作画合成の分野で才能を発揮しました。

円谷英二との出会いと「向山合成」

東宝争議を経て一時的に会社を離れるも、1950年に復帰。この復帰が、向山の映画人生を大きく左右します。円谷英二との出会いによって、向山は東宝特撮映画の中心的な存在として頭角を現し、その卓越した技術は「向山合成」と称えられました。特殊技術課設置後は合成係の係長として、チームを率い、数々の作品を成功に導きました。

卓越した技術と創造性

1963年にオックスベリー社製のオプチカル・プリンターが導入されるまで、向山は自作のプリンターを用いて合成作業を行っていました。この事実は、彼の技術力の高さと創造性を物語っています。特技監督の中野昭慶は、向山の手先の器用さを円谷英二以上と評価し、失われたオプチカルプリンターの技術が後輩に受け継がれていることを証言しています。

ゴジラと向山宏

東宝の田中友幸は、『ゴジラ』（1954年）における、逃げ惑う群衆に上からのしかかるように歩くゴジラの合成シーンを高く評価しています。このシーンは、向山の合成技術が映画に与えたインパクトを象徴するものであり、彼の代表作の一つとして語り継がれています。

多才な人物像

向山は、映画技術者としてだけでなく、音楽にも造詣が深い人物でした。和洋問わず楽器の演奏に長けており、特に尺八の腕前はプロを唸らせるほどだったと言われています。円谷英二と三味線について談義することも多かったというエピソードは、彼の豊かな人間性を伝えています。

主な参加作品

向山宏が参加した作品は、『ゴジラ』シリーズをはじめ、『モスラ』『宇宙大怪獣ドゴラ』『海底軍艦』など、数多くの特撮映画が含まれます。これらの作品は、彼の合成技術によって、その映像表現を大きく進化させました。

1954年 - ゴジラ
1956年 - 空の大怪獣ラドン
1958年 - 美女と液体人間
1961年 - モスラ
1962年 - キングコング対ゴジラ
1963年 - 海底軍艦
1964年 - モスラ対ゴジラ
1965年 - フランケンシュタイン対地底怪獣
1966年 - フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ
1968年 - 怪獣総進撃
* 1970年 - ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣

受賞歴と晩年

1948年には日本映画技術賞を受賞するなど、その功績は高く評価されています。1970年に東宝を退社した後、1987年の『漂流教室』にも参加していますが、没年は不明です。

向山宏は、日本映画史における特撮技術のパイオニアとして、その名を永遠に刻んでいます。彼の技術と創造性は、後世の映画制作者たちに多大な影響を与え続けています。

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