向殿政男

向殿 政男

向殿 政男（むかいどの まさお、1942年〈昭和17年〉4月5日生まれ）は、日本の著名な工学者です。特に安全工学の分野において、日本国内はもとより国際的にも指導的な役割を果たしてきました。彼の専門は安全工学に加え、ファジィ理論や多値論理といった高度な情報科学分野にも及びます。長年にわたり、フェイルセーフに代表される安全理論の構築と普及に努めるとともに、各種事故調査委員会の委員や国家規格・国際標準化活動に深く関与し、産業界や社会全体の安全水準向上に多大な貢献をしてきました。その功績により、安全功労者内閣総理大臣表彰や瑞宝中綬章を含む、数多くの栄誉を受けています。明治大学の工学博士であり、同大学の名誉教授、また校友会の名誉会長も務めています。

経歴と研究活動

向殿政男氏は、明治大学附属明治高等学校を経て、明治大学工学部電気工学科に進学し、1965年に卒業しました。大学院へ進み、当初は鉄道関連の研究に従事していましたが、後にフェイルセーフなどの安全研究へと研究の軸を移しました。1967年に修士課程を、1970年（昭和45年）には博士後期課程を修了し、工学博士号を取得しました。博士課程修了と同時に明治大学電気工学科の専任講師に着任し、1973年に助教授に昇進しました。

1978年（昭和53年）には、電子通信工学科の教授に就任し、安全分野に加え、ファジィ理論や多値論理の研究にも積極的に取り組みました。1979年（昭和54年）には客員研究員としてカリフォルニア大学バークレイ校に滞在し、国際的な視野を広げました。1987年（昭和62年）には国際ファジィシステム学会の副会長を務めるなど、国際的な学術交流にも貢献しています。1989年（平成元年）からは、理工学部情報科学科の教授として教育・研究活動を続けました。

1996年（平成8年）には大学院理工学研究科委員長に就任し、教育行政にも関わりました。また、日本ファジィ学会（1993年・平成5年）や日本信頼性学会（2003年・平成15年）など、多くの学術団体の会長を歴任しました。2006年（平成18年）からは日本学術会議連携会員としても活動しています。

社会への貢献

向殿氏は、研究室での活動にとどまらず、社会の安全向上に精力的に関わりました。安全規格の制定に深く携わり、ISO45001のJIS原案作成委員会で委員長を務めるなど、国内外の安全基準の策定に貢献しました。また、製品事故や災害に関する各種調査委員会に専門家として参加し、原因究明と再発防止策の提言を行いました。特に、清掃ロボットの安全基準に関与したり、こんにゃくゼリーの窒息事故を受けて消費者庁の委員会に有識者として参加するなど、身近な製品の安全確保にも尽力しました。

さらに、安全に関する知見を広く一般に伝えるため、テレビ番組「世界一受けたい授業」に安全のエキスパートとして出演（2009年～2014年）するなど、メディアを通じた啓発活動も行いました。リスクアセスメントや安全設計に関する多数の著書を執筆・監修しており、その著作は安全に関わる実務家や研究者に広く読まれています。

晩年の活動と栄誉

2009年（平成21年）7月には、明治大学校友会会長に就任しました。2013年（平成25年）には「安全学の夢に向かって～論理・ファジィから安全へ～」と題した最終講義を行い、明治大学を定年退職し、同大学名誉教授の称号を得ました。その後も、2014年（平成26年）より同大学顧問を務めるほか、様々な組織や委員会の会長職を務め、活発な活動を続けました。

長年にわたる多大な貢献が評価され、2015年（平成27年）には安全功労者内閣総理大臣表彰を受賞しました。また、セーフティグローバル推進機構では会長を務め、彼の名を冠した「向殿安全賞」が2015年に設立されました。2020年（令和2年）からは鉄道総合技術研究所の会長に就任しています。

2021年（令和3年）には、教育研究分野における長年の功労が称えられ、瑞宝中綬章を受章しました。

主な著作・論文等

単著では『よくわかるリスクアセスメント』や『入門テキスト安全学』など、共著・編著・監修を含め、安全工学や情報科学に関する多くの書籍を出版しています。研究論文や解説記事も多数発表しており、特にフェイルセーフ、ファジィ理論、リスクアセスメント、機械安全などに関するものが知られています。

• - 代表的な単著として：

- 『よくわかるリスクアセスメント』（中央労働災害防止協会）
- 『入門テキスト安全学』（東洋経済新報社）

• - 代表的な共著・編著・監修として：

- 『安全設計の基本概念』（日本規格協会）
- 『安全学入門』（研成社）
- 『信頼性・安全性工学』（オーム社）

向殿政男氏は、理論研究から実務への応用、そして社会への啓発活動まで、安全分野の発展に生涯を捧げた第一人者として、その功績は広く認められています。

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