君を想いて

君を想いて（The Very Thought of You）

『君を想いて』（きみをおもいて）は、1934年にイギリスのバンドリーダー、レイ・ノーベル（Ray Noble）によって作詞・作曲され、世に送り出されたポピュラーソング、ジャズスタンダードです。その美しいメロディーとロマンチックな歌詞は、発表から時を経た現在もなお、世界中の多くの人々に愛され続けています。

オリジナル版の誕生と成功

この楽曲は、1934年4月にノーベル自身のオーケストラが、ボーカルにアル・ボウリー（Al Bowlly）をフィーチャーして、イギリスのHMVレコードで初めて録音されました。この録音はその後、アメリカのビクターレコードからリリースされると、またたく間に人気を博し、アメリカのポップミュージックチャートで第1位を獲得する大ヒットとなりました。レイ・ノーベルとアル・ボウリーの組み合わせは、当時多くのヒット曲を生み出し、その名を広く知られることになります。

著作権を巡る争い

時が流れ、この名曲は一つの法廷闘争の対象となります。1934年の発表当初、ノーベルは楽曲の著作権をイギリスの出版社であるキャンベル・コネリー社（Campbell, Connelly & Company）に譲渡していました。しかし、著作権の更新時期が近づいた1962年、ノーベルはアメリカ国内での権利を別の出版社、M・ウィットマーク＆サンズ社（M. Witmark & Sons）に譲渡するという行動に出ます。

これに対し、最初の権利譲渡を受けたキャンベル・コネリー社は、ノーベルに対して訴訟を提起しました。彼らは、当初の契約にはアメリカでの権利を含むすべての権利が含まれていると主張しました。この訴訟はイギリスの高等裁判所で争われ、裁判官はキャンベル・コネリー社側の主張を認め、彼らに有利な判決を下しています。この一件は、国際的な著作権管理の複雑さを示す事例として記憶されています。

時代を超えたカバーバージョン

『君を想いて』は、その普遍的な魅力から、多くの著名なアーティストによってカバーされ、それぞれの時代のチャートを賑わせてきました。

ルイス・ラッセル（Luis Russell）：ジャズピアニスト・バンドリーダーのルイス・ラッセルは、1946年にこの曲を録音し、ヒットチャートで第3位にランクインさせました。
リトル・ウィリー・ジョン（Little Willie John）：1961年には、R&Bシンガーのリトル・ウィリー・ジョンがこの曲をリズム・アンド・ブルース風にアレンジして発表。ビルボードホット100で最高位61位を記録しました。
リッキー・ネルソン（Ricky Nelson）：ロックンロールシンガーのリッキー・ネルソンによるバージョンは、1964年にリリースされました。彼のバージョンはビルボードチャートで最高位26位に達し、ホット100には7週間にわたりランクイン。また、ビルボード誌のイージーリスニングチャートでは11位を記録しています。
ナタリー・コール（Natalie Cole）：1991年発表のアルバム『Unforgettable... with Love』に収録されたナタリー・コールのバージョンは、1992年春にアメリカのアダルトコンテンポラリーチャートで34位に達しました。カナダでもアダルトコンテンポラリーチャートに2週間ランクインするなど、幅広い層に受け入れられました。
* クリスチャン・マクブライド（Christian McBride）：現代のジャズベーシスト、クリスチャン・マクブライドは、2020年のアルバム『For Jimmy, Wes and Oliver』にこの曲を収録し、新たな世代へとその魅力を伝えています。

これらのカバーバージョンは、時代やジャンルを超えて『君を想いて』がいかに多くの音楽家やリスナーに影響を与えてきたかを示しています。オリジナル版の成功から著作権訴訟を経て、今日までスタンダードとして歌い継がれるこの楽曲は、20世紀ポピュラー音楽史における重要な位置を占めています。

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