呉文炳

呉文炳（くれ ふみあき）

呉文炳は、1890年（明治23年）5月3日に生まれ、1981年（昭和56年）11月18日に没した、日本の著名な経済学者です。慶應義塾大学で経済学博士号を取得し、その後、日本大学の第4代総長、理事長、そして貴族院議員を務めました。また、広島県呉市の名誉市民でもあります。

生い立ちと教育

東京府東京市麹町区で、統計学者の呉文聰とやす夫妻の四男として生まれました。呉家は、学者の一族として知られる箕作家と縁があり、祖父は蘭学者、父は「国勢調査の父」と称された統計学者でした。麹町尋常高等小学校を卒業後、1913年（大正2年）に慶應義塾大学部法律科を卒業。その後、母校の予科講師や三菱銀行での勤務を経て、アメリカに留学し、シカゴ大学とコロンビア大学で学びました。

学術・教育活動

帰国後、呉文炳は立教大学商学部（現・経済学部、経営学部）の教授に就任。当時、日本ではまだ重要視されていなかった信託業に関する講座を先駆けて開設しました。1927年（昭和2年）には三菱信託に入社し、実務経験を積みながら立教大学の教授も継続。さらに法政大学や専修大学でも教鞭を執り、信託業務の実務と普及に貢献しました。1932年（昭和7年）には京都帝国大学から経済学博士号を授与されました。1939年（昭和14年）には日本大学に移り、商経学部教授に就任。その後、商経学部長、理事、学長を経て、1946年（昭和21年）に日本大学の第4代総長に就任しました。総長、理事長、会頭を兼任しながら、戦争で疎開していた日本大学の各学部のキャンパス確保や整備に尽力しました。

政治活動と社会貢献

1946年（昭和21年）7月8日には貴族院議員に勅選され、日本国憲法の審議にも参加。交友倶楽部に所属し、1947年（昭和22年）5月2日の貴族院廃止まで在任しました。また、大学設置審議会や私立学校審議会の委員、神奈川県公安委員を務めるなど、多方面で社会貢献に尽力しました。

文化・芸術への関心

文学や演劇史にも関心を持ち、『日本演劇の起源』などの著作も残しています。また、江の島に関する浮世絵の収集家としても知られ、そのコレクションは藤沢市に寄贈され、現在、藤沢市藤澤浮世絵館の中核となっています。

人物像

呉文炳は、学者一家に生まれ、その血筋を受け継ぎ、学問の世界で大きな足跡を残しました。先駆的な視点を持ち、信託業の黎明期にその重要性を説き、実務と教育の両面で貢献しました。また、大学運営にも尽力し、日本大学の発展に大きく貢献しました。文化や芸術にも造詣が深く、幅広い分野でその才能を発揮しました。

親族

兄は内科医の呉建。妻は荵。長男は日本大学芸術学部教授の呉正恭。長女は伊東基保に嫁いだ直子。次男は医師の呉直彦。

栄典

勲一等瑞宝章（1965年11月）を受章。

主な著書

『投資信託の研究 米国信託業十二講』
『経済問題としての信託』
『金融論』
『銀行論』
『信託金融論 現代金融経済全集第二十二巻』
『経済学全集 第三十七巻 商業学 上』
『呉文聰統計学論文選集』
『江戸社会史』
『日本演劇の起源』
『国書聚影』
『呉文炳蒐集手蹟目録』
『江の島錦絵集成』
『随筆むらさきぐさ』
『余沫集』
* 『定家珠芳』



呉文炳は、経済学者、教育者、そして文化人として多岐にわたる分野で活躍し、その功績は今日まで高く評価されています。

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