咄陸可汗

咄陸可汗（とつりくかがん）

咄陸可汗（テュルク・カガン）は、7世紀前半に西突厥を治めた可汗です。本記事では、彼の生涯と、激動の時代における西突厥の動向について解説します。

生い立ちと即位まで

咄陸可汗は、莫賀設（バガ・シャド）の子として生まれました。莫賀設は統葉護可汗（トン・ヤブグ・カガン）に仕え、唐との外交にも関わった人物です。泥孰は父の死後、伽那設（カーナー・シャド）となり、後に莫賀設を継承しました。

当時、西突厥は内紛が絶えず、権力闘争が繰り広げられていました。貞観2年（628年）には、莫賀咄（バガテュル）が統葉護可汗を殺害し、大可汗を自称する事態となります。混乱の中、泥孰は可汗に推戴されるも固辞し、代わりに統葉護可汗の子である肆葉護可汗を擁立しました。

しかし、肆葉護可汗の治世も長くは続きませんでした。貞観4年（630年）には、肆葉護可汗が莫賀咄可汗を破り、金山（アルタイ山脈）へ敗走させましたが、最終的に泥孰によって殺害されます。

可汗即位と唐との関係

貞観6年（632年）、泥孰は肆葉護可汗から命を狙われ、焉耆国へ亡命します。一方、肆葉護可汗の暴政に不満を抱いた設卑達干（没卑達干）らは、肆葉護可汗を廃位し、国外へ追放しました。これにより、西突厥の人々は泥孰を焉耆から迎え入れ、可汗として即位させました。これが咄陸可汗の誕生です。

咄陸可汗は大可汗となると、直ちに唐へ使者を送り臣下の礼をとりました。これに対し、唐の太宗は咄陸可汗に名号と鼓纛を授け、その地位を認めました。

貞観7年（633年）には、唐から鴻臚少卿の劉善が派遣され、咄陸可汗に呑阿婁拔奚利邲咄陸可汗（とんあろうはつけいりひつとつりくかがん）という長い称号が与えられました。咄陸可汗はこれに対し、再び使者を送って感謝の意を表明しました。

死去とその後

貞観8年（634年）、咄陸可汗は急逝しました。後を継いだのは、弟の同娥設（トンガ・シャド）で、沙鉢羅咥利失可汗（イシュバラ・テリシュ・カガン）として即位しました。

咄陸可汗の治世は短期間でしたが、唐との良好な関係を築き、西突厥の安定に貢献しました。しかし、彼の死後も西突厥の内紛は続き、次第に衰退へと向かうことになります。

まとめ

咄陸可汗は、西突厥の激動期に可汗として即位し、唐との関係を深めた人物です。彼の生涯は、当時の西突厥の政治情勢を理解する上で重要な鍵となります。

参考資料

『旧唐書』（列伝第百四十四下 突厥下）
『新唐書』（列伝百四十下 西突厥）
佐口透・山田信夫・護雅夫訳注『騎馬民族誌２正史北狄伝』（1972年、平凡社）
内藤みどり『西突厥史の研究』（1988年、早稲田大学出版部、ISBN 4657882155）

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