和辻春樹

和辻春樹

和辻 春樹（わつじ はるき）は、1891年（明治24年）9月5日に生まれ、1952年（昭和27年）8月24日に亡くなった、昭和時代の代表的な造船技師であり、科学評論家としても知られる人物です。官選ながら京都市長を務めた経歴も持ち、観光日本社長、関西造船協会会長、造船協会常務理事長といった要職も歴任しました。著名な哲学者である和辻哲郎は父方の従兄にあたり、歌手のロミ・山田は姪にあたります。

略歴

医師の子として東京の地に生を受けた和辻春樹は、旧制第三高等学校を経て、1915年（大正4年）に東京帝国大学工科大学船舶工学科を卒業しました。卒業後は、当時の主要海運会社であった大阪商船株式会社（現在の商船三井の前身の一つ）に技師として入社します。以後、造船技師としての才能をいかんなく発揮し、多くの船舶の設計に携わりました。

特に旅客船や移民船の設計において顕著な業績を残しており、1921年には別府航路に就航した客船「むらさき丸」を手がけたほか、世界一周航路用の大型貨客船「あるぜんちな丸」や、南米への移民輸送を担った「ぶらじる丸」（これらは姉妹船である「あるぜんちな丸級貨客船」に属します）など、日本の海運史に名を残す数々の名船を設計しました。大阪商船在籍中に彼が設計に関わった船舶は、約70隻にも上るといわれています。こうした功績が評価され、社内では専務取締役にまで昇進しました。

造船技術の分野で大きな成功を収めた後、政界にも関わることになります。当時の京都市長であった篠原英太郎が公職追放によって任期途中で辞任したことを受け、議会による推挙により官選の京都市長に就任しました。しかし、わずか8か月後には自身もまた公職追放の対象となり、市長の職を辞することになりました。第二次世界大戦終結後、公職追放が解除された後、1950年には民主党推薦の無所属候補として再び京都市長選挙に立候補しましたが、当選には至りませんでした。

手掛けた主な船舶

大阪商船時代に約70隻の設計に携わった和辻春樹が関わった船の中には、以下のようなものがあります。

特設巡洋艦としても活躍した「盤谷丸」
「黒龍丸」「くれなゐ丸」「瑞穂丸」「高千穂丸」「高砂丸」といった貨客船や貨物船
海外航路で活躍した豪華客船や移民船を多く含む「ぶゑのすあいれす丸級貨客船」「報国丸級貨客船」「さんとす丸級貨客船」「あるぜんちな丸級貨客船（あるぜんちな丸、ぶらじる丸）」など

これらの船は、戦前の日本の海運や国際交流において重要な役割を果たしました。

家族

和辻家は著名な家系であり、春樹の家族構成も興味深いものです。

父・和辻春次：医師であり、京都帝国大学医学部で初代の耳鼻咽喉科教授を務めた後、同大学の名誉教授となりました。帝国大学医科大学卒業後、研究科で助手、各地の病院長や医長、台湾総督府医院長などを歴任し、医学博士の学位を取得後、ヨーロッパへも留学した経験を持つ人物です。
妹・みつ：旧制岡山医科大学学長を務めた田中文夫に嫁ぎました。その子である田中稲波も医師となり、孫娘みちの夫は木村篤太郎の孫にあたります。
弟・和辻広樹：朝日新聞記者として活躍しました。その娘が歌手のロミ・山田です。
妻・恒：北村精造（北村胃腸病院長）の長女です。北村は当時の首相であった原敬の主治医の一人でした。
長男・和辻俊樹：第二次世界大戦中に戦死しました。
次男・和辻春夫：その後の詳細は不明です。
父方伯父・和辻瑞太郎：父・春次の兄にあたる医師です。その息子が、哲学者として知られる和辻哲郎です。

関連人物

* 中村順平：大阪商船時代の和辻の同僚であり、船内の装飾を手がけたことで知られる人物です。

和辻春樹は、日本の造船技術の発展に大きく貢献するとともに、激動の昭和期に一時期ではありますが市政運営にも関わるなど、多彩な才能を発揮した人物として記憶されています。

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