商売往来

商売往来とは

商売往来は、江戸時代に商人向けに作られた初等教科書であり、往来物の一種です。この教科書は、商業に必要な語彙や知識、商人の心得などを教えることを目的としていました。特に、商人を目指す子供たちにとって、商売の基礎を学ぶための重要な教材でした。

歴史と発展

商売往来の最も古いものは、1694年（元禄7年）に堀流水軒によって作られたとされています。この教科書の成功により、多くの類似書が現れ、「商売往来」という言葉自体が、一つのジャンルを指すようになりました。江戸時代前期から明治時代初期にかけて発展し、その内容は時代とともに変化しました。初期には語彙を羅列しただけのものもありましたが、次第に読み仮名や返り点を加えたもの、語彙に解説を加えたもの、図画を加えたものなど、様々な種類が登場しました。

商売往来は、実業に関する往来物の中でも最も早く成立し、他の往来物の編集方法や内容に大きな影響を与えたと言われています。商業だけでなく、農業や工業など、他の職業に関する往来物も多く作られるようになりましたが、商売往来はその先駆けとなりました。

作者と成立

商売往来の作者は、上方の手習い師匠であった堀流水軒です。正確な成立年は不明ですが、広島県三次市立図書館に所蔵されている版本の末尾に「元禄七年五月中旬」とあることから、1694年（元禄7年）頃に成立したと考えられています。

内容

初期の商売往来（元禄7年成立）には、商業に関する361の語彙が収録されていました。その内容は、商品に関するものが圧倒的に多く、商人の子供にとって商品の名前を学ぶことが非常に重要視されていたことが分かります。以下に、収録されていた語彙の内訳を示します。

取引に関する記録文字等：25語彙
貨幣名：8語彙
商品に関するもの：296語彙
商人生活の心得に関するもの：32語彙


この内訳からも分かるように、商売往来は、商人としての実務能力を養うために、商品の知識や取引に関する用語を重点的に教えていました。また、商人としての心構えも教えることで、社会的な役割を果たすための人間形成にも貢献していました。

まとめ

商売往来は、江戸時代の商人が、その職業に必要な知識や技能を学ぶ上で欠かせない教科書でした。単なる語彙集にとどまらず、商業倫理や生活の知恵も教えることで、当時の社会を支える商人たちの育成に大きく貢献しました。その影響は、他の往来物にも及び、日本の教育史においても重要な位置を占める存在です。

参考文献

石川松太郎著『往来物の成立と展開』雄松堂出版、1988年

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