善知安方忠義伝

『善知安方忠義伝』の概要

『善知安方忠義伝』（うとうやすかたちゅうぎでん）は、江戸時代の著名な戯作者、山東京伝によって書かれた未完の読本です。この作品は文化3年（1806年）に刊行され、平将門に関する伝説や謡曲『善知鳥』からの影響を色濃く受けています。作品の正確なタイトルは「善知鳥安方忠義伝」とされることがありますが、これは誤記です。

物語の概要

本作は、平将門の遺児である良門と滝夜叉姫が中心となり、父の遺志を受け継ぎ暴動を計画する物語が展開されます。一方では、善知安方夫婦の誠実な忠義とそれに伴う苦難の物語が交差しています。善知安方という名前は、近松半二の作品『奥州安達原』にも登場し、物語の中で重要な役割を果たしています。また、主要な登場人物の夫婦は他の元太平記に関連する歌舞伎にも登場することから、歌舞伎の文化的影響が作品内に見受けられます。特に、「ウトウ」という親鳥が鳴くと、それに鳴き返す子鳥の伝承が善知の名前に反映されており、親子の絆を象徴しているといえるでしょう。

未完の経緯と続編

山東京伝による『善知安方忠義伝』は、残念ながら未完に終わっています。後の時代において、他の戯作者、松亭金水がこの作品に手を加え、嘉永2年（1849年）には第2編を、万延元年（1860年）には第3編を執筆しましたが、最終的には傑作は完結することができませんでした。

「相馬の古内裏」

また、歌川国芳による「相馬の古内裏」という大判錦絵は、この読本を元に描かれた作品です。この絵は、3枚続きの構成で、弘化2〜3年（1845〜1846年）頃に制作されたとされています。本作は、筑波山に住むヒキガエルの精霊・肉芝仙から妖術を授かった良門と、滝夜叉の姉弟が巨大な骸骨を操り、源頼信の家臣である大宅太郎光圀と戦うシーンを描いています。読本においては、多数の骸骨が戦う様子が描かれているものの、国芳はそれを一体の巨大な骸骨として表現し、御簾を破って登場する場面を特に強調しました。

相馬の古内裏とは、下総相馬にあった将門の政庁の廃屋を指し、滝夜叉姫が父の遺志を継ぎ反乱を計画する際に利用された場所です。このように、作品は歴史的背景を持ち、その物語は後世にも影響を与え続けています。

まとめ

『善知安方忠義伝』は、平安時代の物語を基にした深いテーマを持つ作品であり、その未完成の形状ゆえに、さまざまな解釈や続編を生む余地を残しています。また、歌舞伎や浮世絵に見ることができるように、日本の伝統文化の中に深く根ざした作品であることを感じさせます。

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