松亭金水

松亭金水：江戸時代後期の多作な作家

松亭金水（しょうてい きんすい、1797年-1863年）は、江戸時代後期に活躍した作家です。本名は中村保定、または経年。源八、源八郎といった通称や、積翠道人、拙作堂といった号も使用していました。

金水は書道家・谷金川に師事し、筆耕や手跡指南を生業としていました。戯作者の版下の筆耕を手がける中で、為永春水の浄書を通じて戯作者の道へ進みます。「金水」という号は、師である金川と春水からそれぞれ一字ずつ贈られたものです。

金水の作家活動は1831年刊の『二十四孝稚教訓』から始まりました。師である為永春水が1843年に没した後、金水は勧善懲悪を主題とした人情本を数多く執筆し、人情本末期の代表的な作家となりました。単独での作品制作だけでなく、山東京伝の『善知安方忠義伝』や曲亭馬琴の『朝夷巡島記』など、他人の遺稿を書き継いで完成させた作品もあります。

その作風は、金水独自の色合いを持つものではなく、依頼された内容に応じて作品を制作したと評されています。人情本の他、合巻、随筆、読本、図会など、幅広いジャンルの作品を手がけており、その作品数は非常に多いことが特徴です。

居住地は定まっておらず、神田大和町（現在の東京都千代田区岩本町二丁目）を皮切りに、浅草寺地内、日本橋小伝馬町、北新道、本郷附木店と転々としていました。没後は牛込榎町（現在の東京都新宿区榎町）の大法寺に葬られましたが、同寺が移転したため、墓所も移されています。戒名は丁悟院金水日松居士です。

金水には梅亭金鵞という弟子がいました。

代表的な作品

金水の作品は多岐に渡り、以下はその一部です。

合巻：『歌枕偽物語 初編』（渓斎英泉画）、『仇竸花夕栄』（歌川貞重画）、『鴬墳梅赤本』（一寿斎国政・歌川芳玉画）、『勧善浮世車』（歌川貞房画）など
人情本：『恋の花染』、『比翼連理花廼志満台』（歌川国直画）、『盛衰栄枯娘太平記操早引』（歌川国直画、後半部分）、『閑情末摘花』（歌川貞重画）、『花筺』、『鶯塚千代廼初声』（歌川芳虎画）、『鞠唄三人娘』など
読本：『七国史伝』（為永春水と合作）、『忠勇阿佐倉日記』（歌川貞秀画）、『日本百将伝一夕話』（柳川重信画）、『大川仁政録』、 『朝夷巡島記』（葛飾為斎画、後半部分）、『善知安方忠義伝』（葛飾為斎・柳川重信画、後半部分）など
随筆：『太平楽皇国性質』、『積翠閑話』（梅の本鶯斎画）、『松亭漫筆』など
図会：『江都近郊名勝一覧』（歌川広重画）など
辞書：『早引文字通』

これらの作品は、近年の復刻や改版によって、現代でも読むことができます。

研究

松亭金水の作品や生涯については、様々な研究がなされています。例えば、金水の人情本における「伏線」を分析した論文や、その随筆作品に関する研究などがあります。これらの研究は、金水の作品をより深く理解する上で重要な手がかりとなります。

金水は、その膨大な作品数と多様なジャンルへの挑戦を通して、江戸時代後期の出版文化に大きく貢献した作家と言えるでしょう。独特の文体こそ持たなかったものの、時代のニーズに応え、多様な読者層に向けて作品を提供し続けた彼の存在は、現代においても注目に値します。

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