四方田草炎

四方田草炎：孤高の素描画家

四方田草炎（よもだ そうえん、1902-1981）は、埼玉県本庄市（旧児玉郡北泉村）出身の昭和期の画家です。本名、青次郎。旧家の子として生まれ、生前はほとんど知られていませんでしたが、没後、その圧倒的な才能が認められ、「孤高の素描画家」として注目を集めるようになりました。

生涯

高等小学校卒業後、上京し神田の書店に勤めながら川端画学校で日本画を学びました。川端龍子を師と仰ぎ、浦和市別所沼畔に住まいを構え、須田剋太ら浦和[[画家]]の仲間たちと交流を深めました。

1928年、川端龍子主宰の画塾「御形塾」に入塾。1930年、第2回青龍展で龍子作品『草炎』から雅号「草炎」を与えられます。これは草炎にとって大切な名前となりました。翌年、第3回青龍展で『花紅白』が初入選。その後も青龍展で入選を重ね、新進気鋭の日本画家として期待されましたが、1938年に青龍社を退社します。その理由は不明です。

戦後間もなく、草炎は群馬県霧積山中に身を寄せます。標高1100mの山中で野生の猿を描き続け、独特の孤高の画風を確立しました。下山後は、グループ展や個展を中心に作品を発表。昭和30年頃からは作陶も始めました。しかし、青龍社時代のような成功は収めず、1971年に脳溢血で倒れ、10年間にわたる闘病生活ののち、79歳で亡くなりました。晩年は「一生パン画は書かない」「有名になると絵が駄目になる」と繰り返し、名声に背を向け、孤高の道を歩み続けました。

没後5年、東京六本木のストライプハウス美術館で「四方田草炎全貌展」が開催され、再評価のきっかけとなります。その後、各地で展覧会が開かれ、本庄を代表する画家として広く認知されるようになりました。

画風と評価

草炎の素描作品は1万点を超えます。画面を強く走る線、何度も重ねて描かれた黒光りする部分は、対象の本質を捉えようとする画家の強い意志を感じさせます。この画風は、山中の生活で磨かれたものです。

近代日本画の中心人物、横山大観は草炎の素描を「神の手だ」と絶賛したという逸話も残っています。

その他

青龍社退社後から戦後にかけての作品の多くは、戦災で失われてしまいました。これは草炎にとって大きな痛手でした。生前は「画家は本画を見せればいい」と繰り返し発言しており、これは皮肉とも解釈されています。NHK『日曜美術館』でも特集され、大きな反響を呼びました。

四方田草炎は、生前は成功とは無縁の画家でしたが、その独特の画風と、芸術への並々ならぬ情熱は、後世に大きな影響を与え続けています。彼の作品は、孤高の精神と、自然への深い洞察が凝縮された、まさに「神の手」によるものと言えるでしょう。現在でも、多くの美術館やコレクションで作品が所蔵され、高い評価を得ています。彼の生涯は、芸術家としての信念と、時代の流れに翻弄されながらも、自らの道を貫いた、一人の画家の生き様を物語っています。

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