団地妻 昼下りの情事

団地妻 昼下りの情事

『団地妻 昼下りの情事』は、日本の成人映画史において特筆すべき作品であり、特に1971年版は日活ロマンポルノの記念すべき第一作として公開されました。この作品は、それまで明確な類型として存在しなかった「団地妻」という設定をポルノグラフィの世界に持ち込み、その後の多くの追随作品を生み出すきっかけとなった点で、ジャンルの始祖と位置づけられています。

1971年版：日活ロマンポルノの幕開け

単調な日常に埋もれる平凡な主婦が、満たされない欲求から逸脱した関係に足を踏み入れ、やがて悪質な売春組織に引きずり込まれて破滅へと向かう様を描いた物語です。東京都調布市・狛江市に位置する神代団地で、当時の映画としては異例の低予算となる750万円で製作されました。

ストーリーの中心となるのは、多忙な夫から構ってもらえず、性的な不満を募らせる専業主婦の律子です。彼女は隣人の陽子から性具を渡され、さらに押し売りの男・畑中からコンドームを売りつけられたことをきっかけに、自慰行為に耽溺するようになります。そんな折、夫婦共通の友人であるプレイボーイの桐村と関係を持ってしまいます。しかし、この関係は陽子によって隠し撮されており、陽子は写真を盾に律子を自身の仲介するコールガールのアルバイトに誘います。実は、陽子と畑中は裏で繋がっており、一連の出来事は律子を組織に引き込むための巧妙な罠だったのです。脅迫に屈し、売春組織の一員となった律子でしたが、次第にその仕事の中に新たな快感を見出していきます。

一方、夫の良平は、妻の服装が華美になったり、夫婦生活の様子が変わったりしたことから、律子に不審を抱き始めます。良平は課長昇進がかかった重要な商談のため、商談相手であるマイクの接待を旧友の桐村に依頼し、コールガールを派遣してもらう手筈を整えます。皮肉なことに、何も知らされないまま律子がその担当に選ばれてしまいます。接待後、報酬を支払いに訪れた良平は、そこで初めて律子の正体を知ることとなります。妻の裏切りと昇進の道を絶たれたことに絶望した良平は家を飛び出します。平穏な生活を失った律子は逆上し、陽子と揉み合いになり、はずみで陽子を死なせてしまいます。追い詰められた律子は桐村のもとへ向かい、激しく抱き合います。二人は行くあてのない逃避行の末、車中で結ばれながら崖から転落し、自動車は爆発炎上するという衝撃的な結末を迎えます。

この作品は公開されるやいなや、連日立ち見が出るほどの大反響を呼び、当時の金額で1億円という驚異的な興行収入を記録しました。その成功は、以降「団地妻」という言葉を含む多数の作品が生み出され、事実上のシリーズ化へと繋がりました。主演を務めた白川和子は、本作によって一躍脚光を浴び、「ロマンポルノの女王」と称される日活ロマンポルノの象徴的存在となりました。また、それまで目立った活躍のなかった監督の西村昭五郎も、本作の成功を機にロマンポルノの世界で才能を開花させ、団鬼六原作のSM作品などを含む84作品を監督し、「日活の顔」と称されるほどの巨匠へと駆け上がりました。作品は、1966年のフランス・イタリア合作映画『彼女について私が知っている二、三の事柄』に影響を受けて製作されたとされています。

主なキャストとしては、苦悩する主婦・笠井律子を白川和子が、その夫・良平を浜口竜哉が演じました。隣人で売春組織の仲介者である東山陽子には南条マキ、売春組織の元締め・畑中を前野霜一郎、律子と関係を持つ桐村一郎を関戸純方が演じるなど、当時のロマンポルノを彩る俳優陣が出演しています。

2010年版：現代の解釈

2010年には、日活ロマンポルノのリメイク企画「ロマンポルノ・リターンズ」の一環として、リメイク版が製作・公開されました。タイトルは『団地妻 昼下がりの情事』と、送り仮名が一部変更されています。このリメイク版は、1971年版の基本的な枠組み（団地に暮らす主婦の物語）は踏襲しつつも、ストーリーは大幅に現代に合わせて改変されています。過疎化が進む団地という閉塞的な環境で、多忙な夫との関係に悩む現代の主婦像を描き出し、1971年版とは異なる視点から「団地妻」というテーマに切り込んでいます。

主演は清香役を高尾祥子、清香に関わるセールスマン・哲平を三浦誠己が務めています。

両作品は公開された時代背景や表現手法は異なりますが、「団地妻」という設定を通して、女性の内面的な欲求や社会からの疎外感を描こうとする点で共通性を見出せます。

もう一度検索