図像学

図像学は、絵画や彫刻などの美術作品に用いられるモチーフやシンボルの意味、そしてその由来を研究する学問です。特に、近代以前の美術作品は、作家の個性表現だけでなく、社会的なメッセージを伝える役割を担っていました。これらの作品では、特定のモチーフが特定の意味を持つことが多く、例えば西洋美術では、百合は「純潔」、犬は「忠誠」を象徴するなど、共通認識に基づいた表現が用いられていました。

さらに、人物とその持ち物（アトリビュート）が関連付けられることも多く、聖母マリアは百合を、ヘルメース（メルクリウス）は蛇と翼のついた杖を持つといったように、特定の人物を識別する手がかりとなっていました。これらの図像は、作品が制作された当時の社会における約束事であり、それを理解することで、作品に込められたメッセージを読み解くことが可能になります。

ヨーロッパ美術における図像学

中世のキリスト教美術では、教義を視覚的に伝えるために図像学が発展しました。ルネサンス期には、ギリシア神話やローマ神話に由来する図像も取り入れられ、さらに多様なモチーフが用いられるようになりました。マニエリスムの時代には、宮廷で鑑賞される作品として、非常に複雑な寓意を持つ作品も制作されました。しかし、これらの図像の意味は近代になると次第に忘れられていきました。

20世紀初頭、美術史家エミール・マールは、『ロマネスクの図像学』や『ゴシックの図像学』などの著作を通じて、中世の図像体系を明らかにしました。これにより、中世美術の理解は大きく進展し、図像学の重要性が再認識されることとなりました。

映画における図像学

映画の世界では、図像学は「アイコノグラフィ」と呼ばれます。これは、俳優の社会的イメージや、各ジャンルで予め決められた約束事のことを指します。例えば、ウエスタン映画における決闘シーンのように、典型的な登場人物や状況、そして照明、セット、衣装、小道具など、スタイル上の特徴を含めた表現を指します。これらの要素は、映画のジャンルを特定し、観客が作品を理解する手助けとなっています。

イコノロジーとの違い

図像学と似た言葉に「イコノロジー（図像解釈学）」があります。イコノロジーは、美術史家エルヴィン・パノフスキーが提唱した概念です。パノフスキーによれば、図像学が絵画作品などに表された事物の意味を研究するのに対し、イコノロジーは、作品の奥底にある歴史意識、精神、文化などをより深く研究する学問です。イコノロジーは、単なる図像の解釈にとどまらず、作品が生まれた時代背景や思想まで考察することで、作品のより深い理解を目指します。

図像学は、美術作品の理解に欠かせない学問であり、作品に込められたメッセージを読み解き、その社会的、文化的背景を理解する上で重要な役割を果たしています。美術史、イコノロジーといった関連分野と合わせて研究することで、より多角的な視点から作品を深く理解することができるでしょう。

もう一度検索