国・地域別のLGBTの権利

LGBTと法：歴史、文化、そして現代社会

はじめに

レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー（LGBT）を取り巻く状況は、国や地域によって大きく異なります。同性結婚の合法化や同性パートナーシップ制度の有無、同性間の性的行為に対する罰則の有無、LGBTへの差別や暴力に対する法的保護など、多岐にわたる法律がLGBTの人々の生活に直接的な影響を与えています。本稿では、LGBTに関する法の歴史的背景、文化的な側面、そして現代社会における課題について、詳細に解説します。

歴史的背景：西洋社会

古代ローマでは、共和政ローマ時代に同性愛行為を取り締まる法律「Lex Scantinia」が存在しましたが、その後、男性の性的行動に対する規制は緩やかになり、身分制度と複雑に絡み合っていました。カリグラ帝治世下では、同性愛を含む売春が合法化され、課税の対象にもなっていたことが記録に残っています。大英博物館所蔵の「ウォレン・カップ」やポンペイの壁画、エトルリア人の遺跡など、古代ローマにおける同性愛の存在を示す考古学的証拠も数多く発見されています。

一方、旧約聖書には、男性間の性交渉を禁じる記述があり、ソドムとゴモラの滅亡の物語は、同性愛に対する否定的な見解の根源の一つとなっています。古代インド・ヨーロッパ語圏や古代ドイツ文化圏にも、同性愛行為に対する罰則が存在した記録が残されています。

近年の状況：世界各地の現状

近年では、LGBTに対する差別を禁止する法律が制定されたり、同性結婚が認められたりする国が増えてきていますが、LGBTに対する偏見や差別は依然として世界中で問題となっています。イギリスの調査では、LGBTの子供たちの半数以上がいじめを経験しているという結果も出ており、同性結婚に対する反対運動も盛んです。ロシアなど、LGBTへの反発が強まっている国では、国外脱出を余儀なくされるLGBTの人々も存在します。

アジア

インドネシアでは、イスラム教の影響が強く、同性愛に対する嫌悪感が根強い一方、世俗国家であるため同性愛を直接禁止する法律はありません。しかし、反ポルノ法などを利用した逮捕事例も発生しています。アチェ州では、同性愛行為に鞭打ち刑を科す条例が可決されています。

台湾は、アジアで初めて同性婚を合法化した国であり、LGBTに対して比較的寛容な地域です。2007年には、就業時の性的指向に基づく差別を禁止する法律が成立しました。

中国では、中世までは同性愛は必ずしも否定的には捉えられていませんでしたが、清朝時代に「㚻姦罪條」が制定され、同性愛行為の一部が違法化されました。その後、共産主義化により違法化されましたが、1997年に同性愛を禁止する法律は廃止されました。現在、同性結婚は認められていません。

韓国では、同性愛を禁じる法律はありませんが、LGBTの権利向上は遅れています。韓国軍では、軍隊での同性愛行為は処罰の対象となっています。

北朝鮮では、同性愛を禁止する法律はありませんが、保守的な社会風潮の中で、LGBTの権利は十分に保護されていません。

タイは、比較的LGBTに寛容な国であり、性別適合手術も合法です。

日本では、歴史的に男色文化が存在しましたが、明治時代に一時的に肛門性交が違法とされた時期がありました。戦後、文部省（当時）は同性愛を「性非行」と位置づけていましたが、WHOの方針変更を受けて見解を改めました。現在でも、LGBTへの偏見や差別は依然として存在し、同性婚は認められていません。

フィリピンでは、アジアで初めてプライド・パレードが開催されるなどLGBTの権利意識は高いですが、カトリックの影響が強く、同性婚を規制しようとする動きも存在します。

イスラム社会

イスラム教では同性愛は禁じられていますが、キリスト教ほど厳しく適用されておらず、地域差も大きいです。イスラム原理主義の台頭により、サウジアラビアやイランなどでは死刑が科されることもあります。一方、トルコやヨルダンなどでは同性愛は合法化されています。

その他の地域

ネイティブアメリカンの部族の中には、現代の同性愛・異性愛の概念とは異なる性別の概念を持つ部族も存在しました。ラテンアメリカでは、一部の国を除き同性愛は合法化されています。アフリカ大陸では、南アフリカ共和国以外では同性愛に対する差別が根強く残っています。

結論

LGBTを取り巻く法制度や社会状況は、歴史、文化、宗教など様々な要因によって複雑に影響を受けています。世界中でLGBTの権利向上に向けた動きはありますが、課題も多く残されています。今後も、LGBTの人々の権利が尊重され、平等な社会が実現されるよう、継続的な努力が必要です。

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