国会キス事件

国会キス事件

国会キス事件は、1948年（昭和23年）12月13日に発生した、当時の大蔵大臣である泉山三六が泥酔し、国会内で他党の女性議員に対して不適切な身体的接触を行った結果、議員辞職に至った政治スキャンダルです。戦後の混乱期にあった日本の国会において、議員の品位と規律が問われた出来事として記録されています。

事件の発端は、12月13日に泉山大蔵大臣が参議院食堂で大蔵委員らを招いて会食したことにあります。この会食で泉山大臣は過度に飲酒し泥酔状態となり、議場脇のソファで動けなくなってしまいました。このため、予定されていた法案説明は塚田十一郎大蔵政務次官が代わりに行う事態となりました。泉山大臣の泥酔ぶりを目の当たりにした野党側議員は、これに強く反発し、一斉に議場から退席するという行動に出ました。

事態をさらに悪化させたのは、泉山大臣の泥酔中の不適切な行動が明らかになったことです。参議院食堂において、民主党の山下春江議員に抱きつこうとしたほか、廊下では日本社会党の松尾トシ子議員の手を一方的に強く握ったとされました。これらの行為が判明するに及び、野党各党は猛反発し、泉山大臣に対する懲罰動議の提出に向けて動き出しました。

緊急事態に直面した政府および泉山大臣の所属する民主自由党は対応に追われます。泥酔した泉山氏を急いで起こし、深夜の永田町を車で走行させて酔いを醒まさせようと試みました。また、国会の医務室に運び込み、酔い覚ましの注射を打たせてベッドで休ませるなど、事態の鎮静化を図りました。

しかし、この間の野党側の動きは止まりませんでした。特に野党の女性議員たちは連携し、国会内の規律刷新を目指す決議を行うなど、事態を厳しく追及する姿勢を崩しませんでした。民主自由党内部でも、泉山氏の行動に対する批判が高まり、党からの除名を求める声も上がりました。

一夜明けた12月14日未明、野党側は事件の責任追及のため、緊急の懲罰委員会開催を強く要求しました。しかし、民主自由党の懲罰委員長であった明礼輝三郎氏は姿を見せず、委員会の開催は遅れました。事態の収拾を図るべく、午前4時には政府が国会内で緊急閣議を開催し、泉山大蔵大臣の辞任を正式に決定しました。その後、泉山氏は吉田茂首相のもとを訪れ、進退伺いを提出しました。

懲罰委員会が開かれると、被害を受けたとされる女性議員たちが証言を行いました。山下議員は、泉山氏の行動が「口にすることも憚られる」ほどのものであり、逃れようともがいた際に「左顎に噛み付かれた」と具体的な被害を証言しました。また、松尾議員も「30秒ほど手を強く握られ続け、ようやく振りほどいてその場から逃れた」と当時の状況を詳細に語りました。

これらの深刻な証言を受け、泉山大蔵大臣は同日午後、衆議院議員の辞職届を提出しました。大臣辞任に加え、議員としての身分も失うという重い結果となりました。この事件は、国会議員の倫理観と国会という公の場における品位について、改めて社会に問いを投げかけることとなりました。事件後、日本社会党の戸叶里子議員らが中心となり、議場内における規律と秩序の維持・粛正に関する決議案が提出され、12月22日には衆議院本会議で全会一致をもって可決されました。これは、二度と同様の事態を招かないための、国会としての意志を示すものとなりました。

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