国境の城塞

ザ・キープ・オン・ザ・ボーダーランド (The Keep on the Borderlands)

ゲイリー・ガイギャックスによって制作された『ザ・キープ・オン・ザ・ボーダーランド』は、ダンジョンズ&ドラゴンズ (D&D) の冒険モジュールとして1979年12月に発表されました。このモジュールは、プレイヤーキャラクターたちが砦を拠点とし、その周辺に広がるモンスターが巣食う洞窟群を探索するという内容で構成されています。

D&Dの入門セットであるBasic Setと組み合わせて使用することを想定してデザインされており、1979年から1982年にかけてのBasic Setに同梱されていました。新規プレイヤーがD&Dの世界に足を踏み入れるための、最適な入門編として位置づけられています。

1985年には『国境の城塞』というタイトルで日本語版も出版され、日本国内のD&Dファンにも親しまれました。

1980年代初頭に一度絶版となりましたが、その後2度再版され、続編も制作されるほどの人気を博しました。1999年には、この冒険を小説化した作品も発表されています。批評家からの評価も高く、2004年にはダンジョン誌の「greatest Dungeons & Dragons adventure of all-time」で7位にランクインしました。

プロット

プレイヤーキャラクターは、モジュールのタイトルにもなっている砦に到着したところから物語が始まります。この砦を拠点として、プレイヤーたちは周辺の丘陵地帯に点在する洞窟群を探索することになります。

洞窟群は「渾沌の洞窟」と呼ばれ、様々な凶暴な人型生物たちが住み着いています。プロットには、城塞内に潜む裏切りの聖職者や、近隣の沼地に生息する飢えたリザードマン、そして荒野に潜む狂気の隠遁者などが登場し、冒険を彩ります。典型的なダンジョン探索に加え、限定的ながらも野外冒険の要素も含まれているため、D&D初心者プレイヤーにとって最適なシナリオと言えるでしょう。

ガゼッタ･シリーズ版のカラメイコス大公国が出版された際、この砦はミスタラのノウン･ワールド、具体的にはカラメイコス北部のアルタン･テーペ山脈地域に位置づけられました。

出版の歴史

The Keep on the Borderlandsは1979年12月に印刷され、1980年に出版されました。32ページの小冊子と、外装の折りたたみ地図で構成されています。ゲイリー・ガイギャックスが執筆を担当し、カバーアートはジム・ロスロフ、本文イラストはエロル・オータスが手掛けました。前述の通り、D&D Basic Set用にデザインされており、ベーシック・セットの6～11刷に同梱されていましたが、単体での販売も行われていました。

初版のカバーには「小さな修正を施すことにより、アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズでの使用にも適している」という注記がありましたが、後の版では削除されました。

1985年には、株式会社新和によって日本語版が出版されました。カバーや小冊子など、可能な限りオリジナルの体裁を再現しつつ、日本語化されています。

このモジュールのカバーは、初心者プレイヤーとダンジョンマスター (DM) を支援する目的でデザインされている点が特徴です。初心者のDM向けに、遭遇を円滑に進めるためのヒントが随所に散りばめられています。また、D&Dベーシック・セットには含まれていない、野外冒険のための基本的なルールも提供されています。独立した洞窟の集合体という構造は、初心者がプレーセッションを分割して行えるように配慮されています。このモジュールは、低レベルキャラクター向けの導入シナリオとして設計されており、プレイヤーキャラクターを秩序の最前線基地から混沌の勢力へと導きます。

1984年には、D&Dの10周年を記念して、TSR社からThe 10th Anniversary Dungeons & Dragons Collector's Setが出版されました。このボックス・セットには、ベーシック、エキスパート、コンパニオン・セットのルールブック、AC2 Combat Shield and Mini-adventure、AC3 The Kidnapping of Princess Arelina、B1 In Search of the Unknown、The Keep on the Borderlands、M1 Blizzard Pass、Player Character Record Sheets、そしてダイスのセットが収録されていました。1000部限定で、Gen Con 17と通販で販売されました。

The Keep on the Borderlandsは1980年代中頃に絶版となりましたが、9つのモジュールを編集再編した大型モジュールB1-9 In Search of Adventure (1985年) の中で、混沌の洞窟群のみが再版されました (砦と周囲の荒野は含まれていません)。1999年には、D&Dゲームの25周年を記念して、オリジナルの冒険がDungeons & Dragons Silver Anniversary Collector's Editionボックス・セットに収録されました。この際、コレクターズアイテムとしての価値を高めるために、オリジナルのバージョンから軽微な修正が加えられました。

続編として、Return to the Keep on the Borderlands (1999年) がAD&D第2版用に制作されました。これは、オリジナルのモジュールの20年後の出来事を舞台としており、混沌の洞窟群が完全に充足された状態が描かれています。オリジナルのB2出版物は背景に関して曖昧な点がありましたが、1999年のReturnモジュールでは、砦をヨーマンリーに配置することで、グレイホーク世界における正式な位置づけが与えられました。ただし、グレイホークへの配置は、続編内の多くの細部 (例えば、ミスタラを基盤とする神々、国々、人々などの記述) との整合性に欠ける部分がありました。ノンプレイヤーキャラクターの解説の中には、グレイホークではなくミスタラ設定を参照しているものが少なくとも2つ存在します。

アンドリュー・バイヤーズは、この冒険に対する論評で「もしあなたが初期のD&Dにノスタルジーを感じないなら...この本を買ってはならない。しかし、もしあなたがこれらのごくわずかな一級品のロールプレイング冒険を追体験 (あるいは初体験) することに興味があるなら...あなたが失望させられるとは、私は思わない」と述べています。

2005年には、このモジュールの大幅削減版が、HackMaster RPG用にLittle Keep on the Borderlandsという名で出版されました。

2010年9月には、D&D第4版用に、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストによって週毎のD&D Encountersセッションで使用するために再公開されました。オリジナルと同様に、この修正版のモジュールも、同時に発売された初心者プレイヤー向けのRoleplaying Game boxed set for D&D Essentialsと共に使用するようにデザインされていました。今回、The Keep on the Borderlandsは、D&Dの基本世界であるネンティア谷の混沌の痕として知られる地域に配置されました。

評判

カービイ・T・グリフィスは、ザ・スペース・ゲーマー誌37号でこの冒険を論評し、地図がいささか雑然としていると感じたものの、このモジュールが「興味深く、興奮に満ちている」ことを発見しました。彼は論評を「概して私はこのモジュールを楽しんだし、これを推薦する」と結論付けています。

The Keep on the Borderlandsは、D&Dゲームの30周年である2004年に、ダンジョン誌のgreatest Dungeons & Dragons adventure of all timeで7位にランクインしました。

ワイヤード誌のケン・デンミードは「Top 10 D&D Modules I Found in Storage This Weekend」の1つにこのモジュールを挙げ、「低レベルのパーティにもっと挑戦の機会を与えるべきだ」と述べています。

ローレンス・シックは、1991年発行の書籍Heroic Worldsで「新人プレイヤーのための良い出発点」と述べ、当時他のいかなるロールプレイングシナリオよりも多くの部数が発行されただろうと推測しています。

小説版

1999年、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストはルー・エマソンによる小説版Keep on the BorderlandsをGreyhawk Classics seriesで出版しました。主要登場人物は主に人間かエルフであり、ハーフリングとドワーフは省かれています。女性傭兵であるエディスは筆頭の主役であり、物語は彼女の視点で進行します。この小説はまた、グレイホーク世界に設定されてはいるものの、その所在地に関する情報は乏しいです。

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