国家賠償請求権

国家賠償請求権について

国家賠償請求権とは、公務員の不法行為によって被害を受けた場合に、国または公共団体に対してその賠償を求めることができる権利を指します。この権利の背景には、国家の責任に関する数世紀にわたる法理の変遷が存在します。

歴史的背景

近代国家の成立当初、国家に対する責任は「主権者免責」の原則によって否定されていました。この考え方では、国は不法行為の責任を免れるとされていましたが、一方で公務員が行った具体的な不法行為については、彼らの民事責任が認められることが一般的でした。ドイツやフランス、イギリスにおいては、一定の条件のもとで公務員の民事責任が認められ、法的手続きが整備されていきます。

しかし、国の活動が拡大するにつれ、市民に与える損害も増え、その結果として国家の無責任を維持することが難しくなりました。19世紀末になると、特にドイツやフランスで国家の賠償責任が法制化される動きが見られました。ドイツでは、ヴァイマル憲法により国の賠償責任が初めて広く認められました。

海外の状況

アメリカやイギリスでは「国王は悪をなしえず」という伝統がありましたが、1946年以降、アメリカでは連邦不法行為請求法が施行され、イギリスでも国王訴追法が成立しました。これにより、国家の不法行為責任が原則的に承認されました。しかし、アメリカではなお主権免除の原則が適用されており、法律で認められた場合にのみ賠償が可能となっています。

日本における国家賠償請求権

日本では、大日本帝国憲法時代には国の賠償責任を明確に規定する法律は存在しませんでした。行政裁判所は損害賠償の請求を受理することがなく、その後の判例法においても、国の私的な経済活動に関連する損害についての賠償責任が肯定される一方で、権力的行為による賠償責任は認められないという状況が続いていました。

しかし、日本国憲法が施行されると第17条に国家賠償請求権が定められ、これまで認められていなかった権力的作用による国の賠償責任が初めて明記されました。この条文は、国会によって具体的な損害賠償の要件や範囲を定めるための基盤を提供していますが、立法府がその義務を怠った場合は違憲となる場合があるため、ある程度の法的性格を持っています。

法律による具体化

憲法に基づく国家賠償請求権を具体化する法律として「国家賠償法」が制定されました。この法律では、権力的行為や営造物の瑕疵による損害賠償について規定されています。その他のケースでは民法が適用され、特別法があればその法律に従うことになります。

まとめ

国家賠償請求権は、公務員の不法行為により損害を受けた市民が、国や公共団体に対し賠償を求める権利です。この権利の発展には、歴史的背景や国際的な法理、さらには国内法制が大きく影響を与えてきました。恵まれた現代の法律制度において、市民の権利を包括的に保護するための重要な要素として位置づけられています。

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