国民之友

『国民之友』の概要

『国民之友』は、1887年に徳富蘇峰によって創刊され、1898年まで発行された月刊雑誌です。この雑誌は、民友社によって発行され、日本初の総合雑誌として位置づけられています。徳富蘇峰は、当時の日本における思想・言論界で大きな影響を与えた民権論者であり、平民主義を掲げて活動しました。

創刊と影響

発行は東京市京橋区の民友社で行われており、手助けを得た姉の夫や弟たちも業務に参加しました。雑誌のタイトルは、蘇峰が同志社英学校時代に愛読していたアメリカの週刊誌『ネイション』から名付けられています。創刊当初は月刊で、後に発行頻度が増え、1896年から1897年には週刊に移行しました。表紙のデザインは洋画家原田直次郎が担当しました。

『国民之友』は「人民全体の幸福と利益」を理念とし、自由主義や平等主義を訴えました。この平民主義は、当時国が推進していた武力中心の考え方に対し、生産を基盤とする貧困層の生活向上を目指しました。また、政府の貴族的な欧化主義に対しても批判を行い、国民が自由に西洋化を進めるべきと主張しました。

政治と社会への影響

特に、富国強兵論や徴兵制が盛んだった当時の日本において、『国民之友』は社会の急進的改革を訴え、その内容は多くの読者の心をつかみました。この雑誌は、政教社の『日本人』と並ぶ重要な評論雑誌となり、結果的に売上も大きく伸びました。さらに、社会主義の考え方や条約改正への意見も提案し、当時の政治に大きな影響を与えました。

廃刊の経緯

しかし、日清戦争の影響などで蘇峰が国家主義的な意見に転向すると、支持を失い、1898年には雑誌は廃刊に追い込まれました。蘇峰の姿勢の変化に対し、同時代の知識人たちからは厳しい批判が寄せられました。廃刊後、彼は自身が創刊した国民新聞社の『國民新聞』に活動を移しました。

文学との関係

『国民之友』は、政治や社会に加え文学にも大きな影響を与えました。名だたる文学者たちの作品がこちらで発表され、多くの文学史の重要な足跡を形作りました。特に、坪内逍遙の『細君』や森鷗外の『舞姫』など、多数の名作が同誌に掲載されています。また、翻訳文学も盛んで、二葉亭四迷の作品をはじめとした著名な翻訳家たちが新しい文学の発信に貢献しました。

文学論争

文学においては、森鷗外と他の作家たちとの論争が展開され、『国民之友』における重要な議論として位置づけられています。特に、ドイツの文学を巡る議論は、日本における最初の本格的な文学論争とされています。

まとめ

『国民之友』は、その政治的・社会的な発信だけでなく、文学界においても重要な役割を果たした雑誌です。創刊から廃刊までの11年の間に、多くの知識人や作家が集い、当時の日本の思想や文化を形成する上で欠かせない存在となりました。

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