民友社

民友社は、ジャーナリストであり思想家でもあった徳富蘇峰が、湯浅治郎の協力を得て1887年（明治20年）に設立した、戦前日本の言論団体および出版社です。その拠点は東京市京橋区日吉町4番地（現在の東京都中央区銀座8丁目6番周辺）にありました。

設立と初期の活動

民友社は、徳富蘇峰が熊本から上京し、旧大江義塾の関係者と共に設立されました。アメリカの総合雑誌『The Nation』をモデルとした雑誌『国民之友』を創刊し、山路愛山、竹越与三郎、徳冨蘆花、国木田哲夫といった著名な文筆家たちが集いました。

『国民之友』は、その創刊当初から文学や美術にも力を入れており、1889年には山田美妙の小説「胡蝶」に渡辺省亭による白黒の口絵が掲載され、これが初期口絵史における重要な出来事として注目を集めました。他にも公文菊仙による木版口絵も存在します。

民友社は「平民主義」を標榜し、政府が進める「欧化主義」を「貴族的欧化主義」として批判しました。また、政教社が掲げる国粋主義（国粋保存主義）とも対立し、当時の言論界を二分する勢力として大きな影響力を持っていました。政治的には、自由民権運動の穏健派（改進党など）に近い立場を取り、『国民之友』では、進歩的な言論や欧米の社会問題が積極的に紹介されました。さらに、近代文学の新しい作品の発表の場としても重視され、森鷗外の『舞姫』など、後の文学史に残る作品も掲載されました。

1890年には、民友社は別途、国民新聞社を設立し、日刊新聞『国民新聞』を発刊しました。これにより、民友社の影響力はさらに拡大しました。

論調の変化と解散

しかし、日清戦争後、徳富蘇峰の思想は帝国主義へと転換し、それに伴い民友社および国民新聞社の論調も大きく変化しました。この変化に反発した社員たちは次々と退社していきました。日清戦争後、時論誌から文芸誌としての性格を強めていた『国民之友』は、1898年に『国民新聞』に統合される形で事実上廃刊となりました。

その後も、民友社は徳富蘇峰の著作を刊行するなど、出版事業を継続していましたが、1933年（昭和8年）に明治書院に吸収合併され、その歴史に幕を閉じました。

民友社は、日本の言論界、文学界に大きな足跡を残した出版社として、その名が歴史に刻まれています。

参考文献

* 山田奈々子『木版口絵総覧』文生書院、2005年

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