国民美術協会

国民美術協会：日本の美術界に貢献した団体

国民美術協会は、1913年（大正2年）に設立された日本の美術家団体です。フランスの国民美術協会をモデルに、異なる美術分野の作家たちが「美術家の大同団結」を目指して設立されました。

設立の背景と目的

当時の日本の美術界は、各分野が孤立し、派閥争いが絶えませんでした。国民美術協会は、そうした状況を打破し、美術界全体の活性化を図ることを目的としていました。設立を呼びかけたのは、松岡寿、黒田清輝、岩村透ら著名な美術家たちです。彼らは分野を超えた協力体制を構築し、政府への政策提言や、一般への美術普及活動を通して、日本の美術界の発展に貢献しようとしました。

当初、初代会頭には黒田清輝が推薦されましたが、反対意見もあり、最終的には建築家の中條精一郎が就任しました。この団体は、絵画、彫刻、工芸、建築など、幅広い分野を包含していました。設立翌年には社団法人となり、設立から数年で会員数は300名を超える規模に成長しました。

多岐にわたる活動

国民美術協会は、多様な活動を展開しました。毎年開催された展覧会は、会員の作品展示にとどまらず、「エジプト・ペルシャ・ローマの古品」や「西洋の影響を受けた日本版画」など、企画性の高い展覧会も数多く開催されました。これは、近代日本の企画展の先駆けと言えるでしょう。また、1914年から1929年にかけては、海外作品を含む美術展も積極的に開催しました。

当時、十分な展示施設が不足していたことから、国民美術協会は美術館建設運動の中心的な役割を果たしました。その結果、1926年に東京府美術館が開館しました。さらに、裸体作品の取り締まりに対する抗議や建議、東京美術学校の改革運動への参加、美術局や美術院の設置要求、帝展における装飾美術・工芸の地位向上運動なども行いました。

建築分野においても、国民美術協会は大きな役割を果たしました。中條精一郎をはじめ、横河民輔、伊東忠太など多くの著名な建築家が協会に参加し、関東大震災後の帝都復興計画にも大きく貢献しました。1924年には、「帝都復興創案展」を開催し、多くの若手建築家が参加しました。

活動の終焉と再評価

国民美術協会は、東京府美術館の設立や帝展第四部の新設（工芸分野）を一つの節目として、徐々に活動が停滞していきました。1930年代後半には展覧会開催も減少。第二次世界大戦が始まると、活動は事実上停止し、1943年に自然消滅したと推測されています。

戦後長らく忘れられていた国民美術協会ですが、近年その活動が再評価されています。美術史家の今橋映子氏などにより、日本の美術行政や文化行政、アートマネージメントの発展史を理解する上で重要な団体として位置づけられています。

主要人物

岩村透: 協会設立の中心人物。美術評論家としても知られる。
黒田清輝: 協会の会頭を務めた洋画家。
中條精一郎: 建築家で、協会の会頭を長く務めた。
坂井犀水: 美術編集者で、協会の活動を支えた。

主要文献

国民美術協会に関する研究論文や書籍が多く出版されています。これらの文献を参照することで、より深く国民美術協会の歴史と活動を理解することができます。

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