坂井犀水

坂井犀水：編集者、美術評論家としての多面的な生涯

坂井犀水（さかい さいすい、1871年5月2日-1940年7月31日）は、明治から昭和初期にかけて活躍した、編集者にして美術評論家でした。石川県金沢市に生まれ、本名は坂井義三郎です。

華麗なる経歴：博物館から美術雑誌編集へ

犀水は、加賀藩家老の分家に仕える家柄に生まれたものの、維新後には家運は衰えました。青年期には九鬼隆一と出会い、1891年には帝国博物館技手に任命され、奈良や京都で貴重な古美術の調査に携わります。その後、宗教研究のために大徳寺で参禅し、関西学院などでキリスト教を学ぶなど、幅広い知識と経験を積みました。

1898年には、内村鑑三が創刊した「東京独立雑誌」の編集者となり、編集者としてのキャリアを本格的にスタートさせます。「東京独立雑誌」廃刊後は「東京評論」に移り、同時に「美術画報」の編集にも携わり、ルネサンス期の巨匠ラファエロの評伝を執筆しました。この活動を通じて、美術史家として知られる岩村透と出会い、深いつながりを築きます。岩村からはミケランジェロの伝記執筆を依頼されましたが、犀水自身は美術研究を「道楽」と考えていたと語っています。

1900年から1903年頃には社会事業にも関心を寄せ、留岡幸助の家庭学校（感化院）での活動に専念する計画を立てていましたが、病気のため断念せざるを得ませんでした。1905年には「月刊スケッチ」、「光風」（白馬会の機関誌）の編集を担当し、1909年には「美術新報」の編集に携わり、岩村透とともに誌面を刷新しました。同年には白馬会会員にも加入しています。1913年には国民美術協会が創立されると、理事、主事を務めるなど、美術界の中枢で活躍しました。

多彩な著作活動

犀水は編集活動のみならず、活発な著作活動も行っています。坂井義三郎名義では『画聖ラフアエル』（1902年）、『メリー・リード嬢小伝』（1905年）、『本邦癩病叢録』（編著、1919年）などを発表しました。坂井犀水名義では『日本木彫史』（1929年）、『黒田清輝』（1937年）といった美術に関する著作も残しています。これらの著作は、犀水の多様な関心と深い知識を反映しており、今日でも貴重な資料となっています。

美術評論家としての犀水

犀水の美術評論は、単なる美術史の記述にとどまらず、社会状況や時代背景も踏まえた多角的な視点が特徴です。その評論は、当時の美術界に大きな影響を与え、日本の近代美術史の理解に貢献しました。犀水は、編集者、社会事業家、そして美術評論家として、多様な分野で活躍した稀有な人物と言えるでしょう。その多様な活動は、近代日本の文化史を考える上で重要な手がかりとなります。

参考文献

西田孝司『坂井犀水の青春 : その前半生をたどって』（2014、私家版）
西田孝司『坂井犀水著作目録』（2015、私家版）
* 西田孝司編『坂井犀水初期著作選集』（2016、私家版）

犀水に関する研究は、近年活発に行われており、彼の生涯と業績に関する新たな知見が得られつつあります。今後の研究の進展によって、さらに多様な側面が明らかになることが期待されます。

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