岩村透

岩村透：近代日本美術を牽引した批評家

岩村透（1870-1917）は、明治後期から大正期にかけて活躍した、日本の美術批評における先駆者の一人です。東京美術学校教授として後進の育成に尽力する一方、数々の美術雑誌を創刊し、評論活動を通して日本の美術界に多大な影響を与えました。その生涯と業績を紐解いていきます。

名家の出身と欧米での研鑽

岩村は、土佐藩家老の家系に生まれた名家の出身です。父は後に佐賀県令、愛媛県令、福岡県知事などを歴任した岩村高俊男爵でした。幼少期は慶應義塾幼稚舎などに通うものの、その後はアメリカに渡り、ワイオミング・セミナリーやナショナル・アカデミー・オブ・デザインで絵画と美術批評を学びます。この間、本多庸一らと交流を深め、ジョン・ラスキンやハマトンの影響を受け、美術批評家を志すようになりました。その後、イギリスとフランスに渡り、アカデミー・ジュリアンで研鑽を積み、黒田清輝らとも親交を結びました。イタリア各地の美術も視察し、多様な美術文化に触れることで、幅広い視野を養いました。

美術教育者としての貢献

帰国後、岩村は母校である東京英和学校の教員となり、美術批評活動を開始します。明治美術学校での西洋美術史の講義、そして1899年には東京美術学校の講師に就任、後に教授に昇進します。1900年のパリ万博や1904年のセントルイス万博にも参加し、西洋美術の動向を的確に捉え、日本の美術界に紹介しました。特に『巴里の美術学生』はベストセラーとなり、彼の自由で闊達な講義スタイルと相まって、東京美術学校に新風を吹き込みました。彫刻や工芸にも造詣が深く、批評の対象を多様な分野に広げていきました。

美術雑誌の創刊と美術行政への提言

岩村は、評論活動の場を広げるため、積極的に美術雑誌の創刊にも携わりました。1909年からは坂井犀水と共に『美術新報』の誌面刷新に関わり、数多くの評論を執筆、世界各地の印象派の動向や日本の新しい装飾芸術運動などを紹介しました。さらに1913年には自ら『美術週報』を創刊し、美術行政に関する提言など、積極的に日本の美術界の発展に貢献しました。建築家の中條精一郎を初代会長とする国民美術協会の設立にも尽力し、多ジャンルの美術家たちの連携を目指しました。

晩年と没後

1914年には私費でヨーロッパに渡り、オーギュスト・ロダンと会見したり、未来派音楽家のルイージ・ルッソロの演奏を聴くなど、最先端の芸術に触れました。しかし第一次世界大戦の勃発により帰国後、東京美術学校への復職は認められませんでした。その後、持病の糖尿病が悪化し、療養生活を送る中で1917年に逝去しました。没後、その早すぎる死を惜しむ声が多数上がり、多くの追悼行事が行われました。現在も岩村の業績は高く評価されており、彼の功績を称える資料館やコレクションが各地に存在しています。彼の著作は、美術史研究において貴重な資料として活用されています。岩村透の生涯は、近代日本の美術批評の進歩に大きく貢献した、重要な軌跡を示しています。

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