国鉄シワ115形貨車

国鉄シワ115形貨車：大正天皇の即位を支えた特殊な貨車

国鉄シワ115形貨車は、1915年（大正4年）に大正天皇の即位の礼で使用される儀典用馬車を輸送するために、鉄道院（後の国鉄）によって製造された有蓋貨車（車運車）です。この貨車は、単なる貨物輸送だけでなく、皇室の儀式を支えるという重要な役割を担っていました。

設計と特徴

シワ115形は、大正天皇の即位の礼のために宮内省の所有として24両が製造されました。形式名の「シワ」は、車運車を意味する記号として新しく定められたものです。それ以前にも車運車は存在しましたが、無蓋車が主流でした。シワ115形は、有蓋車であり、これは後の車運車が一般的に無蓋車であることとは対照的です。

車体は、全長7,843mm、全幅2,635mm、全高3,841mmと、当時の貨車としては大型で、自重は8.3tから8.9tでした。荷重は当初設定されていませんでした。ブレーキは側ブレーキのみで、走行装置は一段リンク式です。馬車の搭載を考慮し、車両限界いっぱいに車体が拡大されており、妻面には観音開き式の扉が設置され、ここから馬車を搭載しました。扉を閉めた後、内側から2本の筋交いを設置して車体の強度を補強しました。側面には、両端に小さな扉が一つずつあり、その間には採光用の窓が2つありました。窓の上下には通風孔と覆いが設けられていました。車内は木製で、床面には馬車の車輪を案内する溝があり、搭載後、馬車をジャッキアップして固定するようになっていました。特にシワ117は、天皇が利用する特別儀装馬車を搭載するために、鳳凰の飾りを施した箱を搭載できるようになっており、警護人用の椅子も設置されていました。

運用

シワ115形は、1915年10月28日から11月29日まで、汐留、名古屋、梅小路、山田、畝傍の間で運行されました。列車は1両から11両のシワ115形と他の様々な車種を連結して運行されました。この運行は、大正天皇の即位の礼に合わせて行われ、特別な輸送手段として重要な役割を果たしました。

改造と変遷

即位の礼が終了した翌年の1916年に、全車が宮内省から鉄道院に移管されました。その際、7両は馬車を輸送できる車運車として残され、残りの17両は一般の有蓋車に改造されました。

シワ100形からク50形へ

車運車として残ったのは、シワ115、シワ117からシワ120、シワ126、シワ128で、これらはシワ100形に形式が変更され、シワ100からシワ106となりました。荷重は13トンと定められました。改造によって側面の窓と扉が撤去され、一般的な有蓋車のように引き戸が設置されました。この引き戸は、通常の有蓋車のように外側に取り付けられるのではなく、内側に取り付けられており、これは車両限界の関係で外側に新しいものを設置することができなかったためと考えられます。

1928年の形式称号規程改正により、ク50形に変更され、ク50からク56となりました。しかし、同年の昭和天皇の即位の礼では、老朽化が激しいため使用されず、新たに製造されたクム1形が用いられました。1930年には、妻面の観音開き扉を撤去する改造が行われ、完全に通常の有蓋車となり、ワ21100形に編入されました。

ワ19880形からワ21100形へ

シワ100形にならなかった残りのシワ115形は、一般有蓋車としてワ19880形に改造され、ワ19880からワ19896となりました。1928年の形式称号規程改正で、ワ21100形となり、ワ21100からワ21116となりました。その後、1930年にク50形から改造されてワ21100形に編入された車両が、ワ21117からワ21123となっています。

運用終了

昭和20年代には、ワ21100形のほとんどが廃車となりました。しかし、1両のワ21106は1960年まで残り、鷲別機関区で職員輸送車両として使われていました。また、ワ21115は1948年に三池鉄道に払い下げられ、ユト26になったとされていますが、後年のユト26の形態から、実際には車両が振り替えられた可能性も指摘されています。

まとめ

国鉄シワ115形貨車は、大正天皇の即位の礼という特別な目的のために製造された、非常に特徴的な貨車でした。その構造や変遷からは、当時の鉄道技術や皇室の儀式における輸送の重要性を知ることができます。この貨車は、歴史的な背景を持つ貴重な存在であり、鉄道史における重要な一ページを飾るものです。

参考文献

渡辺 一策『RM LIBRARY 83 車を運ぶ貨車（上）』ネコパブリッシング、2006年
渡辺 一策『RM LIBRARY 84 車を運ぶ貨車（下）』ネコパブリッシング、2006年

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