国鉄5060形蒸気機関車

5060形蒸気機関車：幻の軽量急行用テンダー機関車

5060形蒸気機関車は、鉄道院（国有鉄道の前身）に在籍した、ユニークな経歴を持つテンダー式蒸気機関車です。元々は山陽鉄道がアメリカのボールドウィン・ロコモティブ・ワークスに発注したもので、1両のみ製造されました。その特異な構造と短期間の活躍から、鉄道史において特筆される存在です。

生い立ちと構造

1895年（明治28年）、山陽鉄道は、軽量急行列車牽引用として、思い切った設計の機関車を導入しました。それが5060形（山陽鉄道8形39号）です。車軸配置2-4-2(1B1)という当時としては珍しい構造で、ヴォークレイン4気筒複式という複雑な機構を備えていました。

特徴的な点

日本初の1,524mm動輪: 当時の日本の鉄道車両としては異例の大径動輪を採用し、高速運転を目指しました。
ヴォークレイン複式: 4つのシリンダーを組み合わせることで、蒸気を効率的に利用し、出力を高めることを狙いました。ただし、通常とは異なり、上部シリンダーを高圧用、下部シリンダーを低圧用とする逆の配置が採用されました。
従輪ブレーキ: 従輪にもブレーキ装置が設けられ、制動能力の向上を図っています。

ボイラーは、第3缶胴上に蒸気ドーム、第1缶胴上に砂箱が配置されています。完成時には、当時の山陽鉄道技師長であった南清を記念した「K.MINAMI」のプレートが運転室側面に取り付けられました。これは、南清がヴォークレイン複式の採用を決定した英断を称えたものとされています。

山陽鉄道から鉄道院へ

5060形は、山陽鉄道時代には姫路で使用され、後に神戸に移って貨物列車の牽引にも従事しました。1906年（明治39年）に山陽鉄道が国有化された後も、しばらくは山陽鉄道時代の形式番号で使用されました。1909年（明治42年）に鉄道院の車両称号規程が制定され、5060形 (5060) に改称されました。

短い活躍期間とその後

5060形は、その複雑な構造が災いしたのか、あるいは他の理由があったのか、1919年（大正8年）に廃車となりました。わずか20年ほどの短い活躍期間でした。同コンセプトの単式タンク機関車（10形。後の鉄道院950形）が翌年に10両製造されましたが、その第1陣がテンダー機関車として登場したと見ることができます。

主要諸元

全長: 14,707mm
全高: 3,696mm
全幅: 2,718mm
軌間: 1,067mm
車軸配置: 2-4-2 (1B1)
動輪直径: 1,524mm
弁装置: スチーブンソン式アメリカ型
シリンダー（直径×行程）: 254mm×559mm・432mm×559mm
ボイラー圧力: 11.2kg/cm2
火格子面積: 1.31m2
全伝熱面積: 83.6m2
機関車運転整備重量: 36.94t
炭水車重量（運転整備）: 22.60t
水タンク容量: 8.89m3
燃料積載量: 2.54t
* シリンダ引張力: 4,510kg（単式時）、3,350kg（複式時）

まとめ

5060形蒸気機関車は、その先進的な設計思想と、短命に終わったという点で、日本の鉄道史における興味深い存在です。1両のみという希少性も、その魅力を一層引き立てています。今はもうその姿を見ることはできませんが、図面や文献を通じて、その足跡を辿ることができます。

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