国際化学オリンピック

国際化学オリンピック（IChO）とは

国際化学オリンピック（International Chemistry Olympiad, IChO）は、世界中の高校生が化学の知識と応用力を競う国際大会です。毎年7月頃に約10日間開催され、参加者は理論と実験の両面から化学の難問に挑戦します。単に知識を測るだけでなく、エクスカーションや他国との交流を通じて国際理解を深めることも重要な目的です。

歴史

国際化学オリンピックのアイデアは、チェコスロバキアから生まれました。当初は社会主義諸国の交流を目的としていましたが、1968年の「プラハの春」の影響で、第1回大会はポーランドとハンガリーのみが参加しました。その後、参加国は徐々に増え、1980年には西側諸国も参加するようになりました。ソビエト連邦の崩壊や、アジア・ラテンアメリカ諸国の関心の高まりとともに、参加国数は増加し、2010年の日本大会では過去最高の68の国と地域が参加しました。

日本は1988年と1989年にオブザーバー参加を経て、国内の体制が整った2003年から本参加を果たしました。2010年の日本大会では、金メダル2個、銀メダル2個という好成績を収めました。

大会組織とルール

大会は、開催国の議長が率いる国際審議会と運営委員会によって運営されます。IChO国際情報センターは、第1回大会の開催地であるスロバキアのブラティスラバに置かれています。初参加国は、本参加の前に2年間のオブザーバー参加が義務付けられています。各国からは最大4人の選手と2人のオブザーバーが参加できます。経済的な理由で参加が難しい国には、援助金が提供されています。開催費用をまかなうため、1999年からは参加費が徴収され、開催国は免除される仕組みになっています。

試験内容

試験は、理論試験と実験試験の2つで構成されます。理論試験は5時間で5〜8問の大問を解き、実験試験も5時間で2〜3問の問題に取り組みます。試験範囲は、運営委員会が定めるシラバスに基づき、開催国の委員会が「国際レベルの高校化学教育」とみなす内容です。試験問題は、試験前日に各国のメンターに配布され、翻訳作業が行われます。生徒とメンターの隔離や携帯電話等の持ち込み禁止など、試験の公平性を保つための厳格なルールが設けられています。シラバスはレベル1から3に分かれており、レベル3の内容が出題される場合は、事前に準備問題が公開されます。各国の対策を過度に偏らせないため、公式トレーニングは2週間以内と制限されています。また、試験には開催国にちなんだ「ご当地問題」が出題されることもあります。

成績は、理論試験60%、実験試験40%の割合で計算され、上位から金、銀、銅メダルが授与されます。また、メダルを獲得できなかった参加者でも、満点の得点を出した問題があれば、敢闘賞が贈られます。

開催歴

2010年までに、ヨーロッパで33回、アジアで6回、北米で2回、オセアニアで1回開催されており、ヨーロッパ開催のうち21回は旧東欧諸国で行われました。

2010年日本大会

2010年、日本で初めて国際化学オリンピックが開催されました。前年の生物学オリンピックに続き、2年連続で日本での開催となりました。この大会には、過去最多の68の国と地域から267名の選手を含む約500名が参加しました。準備問題には、火山ガス組成の定量分析やウルシオール構造研究といった「ご当地問題」が含まれ、本試験の理論問題では、リチウムイオン電池やフグ毒のテトロドトキシンが取り上げられました。大会テーマは「Chemistry: the key to our future」で、ロゴマークは丸底フラスコと桜の花をモチーフに、オリンピックカラーを使い平和への願いを表現しています。

大会は早稲田大学と東京大学を会場に行われ、選手は代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターに宿泊しました。エクスカーションでは、東京タワー、浅草、鎌倉、日光への訪問や、茶道、折り紙、書道などの日本文化体験も行われました。日本代表は、金メダル4個という過去最高の成績を収めました。

各国の参加状況

国際化学オリンピックの参加資格は、「20歳以下の高校生」であることです。多くの国では国内予選を行い、代表候補を選出しています。中国、ロシア、インドなどの国々では、非常に多くの参加者が予選に参加しており、日本と比較して、参加者数に大きな差があります。

日本の代表選考

日本では、化学グランプリの成績優秀者の中から、代表候補が選抜されます。選抜方法は、年々変化しており、過去には化学グランプリの成績を重視していましたが、近年では、より多くの生徒にチャンスを与えるため、成績優秀者から代表候補を選び、選抜合宿で選考する方法が採用されています。代表決定後には、実験問題の訓練合宿が行われます。

日本の金メダリスト

2024年現在、日本の金メダリストは22人います。これまでに数多くの優秀な高校生が、国際舞台で活躍しています。

日本の成績

日本代表は、2003年の初参加以降、着実に成績を伸ばしており、2010年の日本大会では金メダル2個、銀メダル2個を獲得し、2022年の中国大会では金メダル4個を獲得しました。

各国の代表選考方法

アメリカでは、アメリカ[[化学会]]の支部ごとに一次選考を行い、上位者が二次選考に進みます。中国では、市、省、全国と段階的に選考が行われます。旧ソ連諸国では、全国共通学力試験が一次選考を兼ねている場合もあります。また、メンデレーエフオリンピックやバルト化学オリンピックなどの国際大会が、選考の場として活用されている国もあります。

国際交流

大会期間中は、日刊広報誌「Catalyzer」が発行され、大会の様子や参加者の紹介、誕生日の祝いなどが掲載されます。また、各国が自国の文化を代表するプレゼントを交換し、交流を深めます。