国際捕鯨委員会

国際捕鯨委員会（IWC）とは

国際捕鯨委員会（International Whaling Commission: IWC）は、国際捕鯨取締条約に基づき設立された国際機関です。その目的は、鯨資源の保護と、捕鯨産業の秩序ある発展を両立させることにあります。事務局はイギリスのケンブリッジに置かれ、クジラ資源に関する規則の採択、研究調査の調整などを行っています。IWCは、科学・技術・保存・財政運営の4つの小委員会を持ち、総会は隔年で開催されています。現在の事務局長はサイモン・ブロッキントン博士、議長はセントルシアのジニーヌ・コンプトン=アントワーヌ氏、副議長はベルギーのフレデリック・シュメイ氏です。

条約の規定

IWCは、鯨資源の保護と利用に関する様々な規定を設けています。

対象となる鯨種：保護される種と、そうでない種を区分します。
漁期：解禁期と禁猟期を定めます。
海域：捕鯨が許可される海域と禁止される海域（サンクチュアリを含む）を定めます。
体長制限：捕獲可能なクジラの体長を制限します。
捕獲方法：捕鯨の時期、方法、捕獲量に関する規定を設けます。
使用器具：捕獲に使用する器具や措置を規定します。
測定方法：クジラの測定方法を定めます。
記録と報告：捕獲に関する報告や統計の記録方法を定めます。
監督方法：捕鯨の監督方法を定めます。

これらの規定は、「付表」として定められ、加盟国代表の4分の3の多数決によって修正が可能です。付表の修正は、条約の目的を達成するために必要であり、科学的根拠に基づいていること、国別や船団別での配分を行わないこと、消費者や捕鯨産業の利益を考慮することが求められます。

また、IWCは締約政府に対し、鯨や捕鯨、条約の目的に関する勧告を行うことができます。勧告は、加盟国代表の単純多数決で決定されます。科学研究目的での捕獲は、特別な許可証があれば可能です。条約への加入は、アメリカ合衆国に通告することで可能であり、脱退も同様にアメリカ合衆国への通告によって、特定の期日にできます。

歴史

IWCの歴史は、1946年の国際捕鯨取締条約の採択から始まりました。

1946年：国際捕鯨取締条約が採択。
1948年：条約が発効。
1949年：第1回IWC年次会合が開催。
1951年：日本が条約に加入。
1960～70年代：ザトウクジラやナガスクジラなど、特定のクジラ種の捕獲が禁止されました。
1982年：商業捕鯨モラトリアムが採択され、日本、ノルウェー、ペルー、ソ連が異議を唱えました。
1980年代：日本は異議申立を撤回し、1987年から科学調査目的の捕鯨を開始。
1990年代：改訂管理方式が採択される一方、南極海サンクチュアリが設定。
2002年：アイスランドが復帰。
2014年：国際司法裁判所が日本の調査捕鯨をモラトリアム違反と判決。
2018年：日本がIWC脱退を通告し、2019年に正式脱退。

加盟国

IWCの加盟国数は、設立当初は少なかったものの、1970年代後半から急増し、1980年代には40カ国前後になりました。近年は、捕鯨賛成国を増やすための勧誘活動が行われ、2019年7月現在では88カ国が加盟しています。しかし、反捕鯨国の勢力が優勢で、特にEU諸国はほぼ全て反捕鯨の立場を取っています。また、中南米諸国も反捕鯨国が多いです。

各地域ごとの勢力分布は以下の通りです。

アジア：捕鯨支持国が多い
アフリカ：捕鯨支持国が優勢
オセアニア：捕鯨支持国が多い
ヨーロッパ：反捕鯨国が圧倒的に優勢
北アメリカ：反捕鯨
カリブ海諸国：捕鯨支持国が多い
中南米：反捕鯨国が優勢

日本は、捕鯨支持国を増やすため、政府開発援助（ODA）を活用する方針を示唆したことがあり、これが批判を浴びたこともあります。また、加盟国を勧誘する際には、資金援助が行われるケースもありました。一方、反捕鯨団体も、同様の勧誘活動を行っていた事例があります。

日本の脱退

日本は、IWC内で提案した改革案が否決されたことを受け、2018年12月26日にIWCからの脱退を表明し、2019年6月30日に正式脱退しました。その後、7月1日から商業捕鯨を再開しています。脱退後も、日本はIWCにオブザーバーとして参加し、共同調査を継続しています。日本の脱退は、IWCの財政に大きな影響を与えました。

日本政府の政策決定

日本政府のIWCに関する政策決定は、水産庁が中心となって行われています。外務省も関与していますが、その役割は副次的です。水産庁と外務省の間には、政策方針について意見の相違があることもあります。また、日本政府の代表は、長年水産庁関係者が務めていましたが、近年は批判的な立場を取る専門家も代表に就任するケースがあります。

捕鯨管理の枠組み

IWCでは、過去にシロナガスクジラ単位（BWU）という基準で捕獲枠を規制していましたが、この方式は失敗に終わりました。その後、新管理方式（NMP）が導入されましたが、資源量算定の基礎となる科学的データ不足が課題となりました。このため、商業捕鯨モラトリアムが採択され、改訂管理方式（RMP）が策定されました。RMPでは、資源保護を優先した捕獲枠の算定が行われますが、商業捕鯨再開は実現していません。

商業捕鯨モラトリアムとサンクチュアリ

1982年に商業捕鯨モラトリアムが採択され、南極海サンクチュアリも設定されました。日本は、南極海サンクチュアリの設定について異議を唱えていますが、受け入れられていません。また、ノルウェーは、異議を維持したまま商業捕鯨を継続しており、アイスランドも一定の条件下で捕鯨を認めています。

監視・監督制度

当初、IWCの監督は操業国の監督官によって行われていましたが、違反行為を防ぐことができませんでした。そのため、国際監視員制度が導入されましたが、依然として違反行為は後を絶ちません。改訂管理制度（RMS）に関する交渉は決裂しており、監視制度に関する合意形成は難航しています。

特別科学許可（調査捕鯨）

日本は、条約第8条に基づき、科学調査目的での捕鯨を行っています。これに対し、国際社会からは批判の声が上がっています。この調査捕鯨（JARPA、JARPN）の学術的有効性については、専門家の間でも意見が分かれています。特に、南極海での調査捕鯨については、国際司法裁判所からモラトリアム違反との判決が出ています。また、アイスランドも特別許可を発給して捕獲調査を行ったことがあります。

2007年年次会合の結果

2007年のIWC年次会合では、先住民生存捕鯨捕獲枠が設定された一方で、日本の沿岸捕鯨を認める提案は否決されました。また、ラテンアメリカ諸国による南大西洋サンクチュアリ設定の提案も否決されました。さらに、日本が行っている調査捕鯨の停止を求める決議が採択されました。

IWCの将来に向けて

IWCでは、捕鯨国と反捕鯨国の対立が続いていますが、妥協点を見出すための努力も行われています。アイルランド提案や、デソト提案などが提示されましたが、合意には至っていません。また、IWCの将来について話し合うための会合も開催されており、IWCの機能回復に向けた模索が続いています。

関連条約

関連条約には、海洋法に関する国際連合条約、南極海洋生物資源保存条約、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約（ワシントン条約）などがあります。特に、ワシントン条約は、鯨類の国際取引を規制していますが、日本は一部の鯨種について留保を付しています。ワシントン条約の解釈については、専門家の間でも意見が分かれており、今後も議論が続くでしょう。

脚注

[参考文献]

[日本語文献]

[外国語文献]

関連項目

捕鯨問題
北大西洋海産哺乳動物委員会（NAMMCO）

[外部リンク]
国際捕鯨委員会
* 『国際捕鯨委員会』 - コトバンク

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