国際標準ドッキング機構

国際標準ドッキング機構（IDSS）

国際標準ドッキング機構（International Docking System Standard、略称IDSS）は、2010年に策定された宇宙船間の結合に関する国際的な標準規格です。この規格は、国際宇宙ステーション（ISS）計画に参加する主要な宇宙機関、すなわちアメリカ航空宇宙局（NASA）、ロシア連邦宇宙庁（ロスコスモス）、宇宙航空研究開発機構（JAXA）、欧州宇宙機関（ESA）、およびカナダ宇宙庁（CSA）を代表する国際宇宙ステーション多国間調整委員会（ISS Multilateral Coordination Board）によって定められました。その目的は、異なる国や組織が開発した宇宙船やモジュールが、安全かつ確実に相互にドッキングできるよう、共通のインターフェースを提供することにあります。

設計特性

IDSSのドッキング機構は、「両性具有」型の設計が最大の特徴です。これは、従来のドッキング機構のようなオス側・メス側の区別がなく、IDSSに準拠したポートであれば、どのポート同士でも互いに結合できることを意味します。これにより、運用上の柔軟性が大幅に向上します。

また、ドッキング時に発生する衝撃を可能な限り抑える技術が採用されており、宇宙構造物や結合する宇宙船への負荷を軽減します。一時的な結合であるドッキングだけでなく、長期的な固定である停泊（berthing）にも対応可能です。

操作面では、宇宙船による自律的なドッキング操作と、宇宙飛行士による手動でのパイロットドッキングの双方をサポートします。緊急時には、火工品を用いてドッキングポートを安全かつ迅速に分離できる機構も備えています。

ドッキングが完了すると、IDSSインターフェースを介して電力の供給、データの送受信、コマンドの伝達、空気（生命維持に不可欠な大気）の交換、および通信回線の接続が可能となります。さらに、将来的な改良や実装においては、水、推進剤（燃料や酸化剤）、加圧剤といった流体や気体の移送機能も追加される計画です。

乗員や貨物が宇宙船間を移動するための内部通路は、直径0.8メートル（約31インチ）の空間が確保されています。

ドッキング手順

IDSSによるドッキングプロセスは、二段階のフェーズを経て完了します。

1. ソフトキャプチャシステム（SCS）
まず、アクティブ側のドッキングポートに備わるソフトキャプチャシステム（SCS）が機能します。パッシブ側のシステムは格納されたままです。SCSは、ドッキングリングの外周に等間隔に配置された、花弁のような形状をした複数の構造物で構成されています。宇宙船が互いに接近するにつれてSCSが伸展し、両方のドッキングポートを正確な位置に誘導・位置合わせします。位置合わせが完了すると、SCSにより両ポートが機械的に一時的に係留（ラッチ）されます。
その後、複数（通常6つ）のサーボ駆動式の脚が作動し、両宇宙船間に残る相対的な動き（回転や平行移動）を吸収し、構造物を引き寄せるように収縮を開始します。SCSは前後・左右・上下の移動と、各軸周りの回転という「6自由度」に対応しており、これにより最初のドッキングアプローチに必要な位置決めの精度要求が緩和されます。

2. ハードキャプチャシステム（HCS）
ソフトキャプチャによる一時的な係留が達成された後、ハードキャプチャシステム（HCS）が作動し、最終的で強固な結合を確立します。これは、アクティブ側とパッシブ側の両方のポートに設けられた多数（通常12対）のメカニカルフックから構成されます。ガイドピンなどの機構を用いて、ドッキングリングの正確な位置合わせが図られ、フックが適切に係合・駆動されます。
全てのフックが完全に係合することで、両方のドッキングポートが物理的に堅固に結合されます。物理的な結合が完了すると、ドッキングポートに内蔵された電気コネクタが自動的に接続され、電力やデータなどの本格的な移送が開始されます。これにより、ドッキング手順は完了となります。

主な実装例

IDSS規格に準拠したドッキングシステムは、複数の宇宙機関や企業によって開発・運用されています。

NASAドッキング機構（NDS）: アメリカ航空宇宙局（NASA）が開発したIDSS準拠のドッキングシステムです。
国際ドッキングアダプタ（IDA）: ISSに設置されているアダプタで、古いロシアのAPAS-95規格のドッキングポートをIDSS規格に変換する機能を持っています。計画された複数のIDAのうち、一つは打ち上げ時に失われましたが、残りはISSに設置され、IDSS互換の宇宙船受け入れに貢献しています。
国際的な停泊およびドッキングメカニズム（iLIDS）: 欧州宇宙機関（ESA）が開発した、IDSS互換性を持つドッキングシステムです。
月ゲートウェイ: 将来的な月周回有人拠点である月ゲートウェイの構成要素（特に電力・推進要素など）も、IDSS互換となるよう設計が進められています。
* 中国の乗組員カプセル: 2020年3月には、中国が開発している新しい乗組員カプセルがIDSSと互換性を持つ可能性が報じられました。

IDSSは、国際協力による宇宙探査を推進し、将来の多様な宇宙船が互いに接続できる共通基盤を提供する重要な技術規格です。

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