土屋挙直

土屋挙直：激動の時代を生きた最後の藩主

土屋挙直は、常陸国土浦藩の最後の藩主として知られる人物です。1852年、水戸藩主徳川斉昭の十七男として誕生しました。徳川斉昭といえば、尊王攘夷を唱え、幕末の動乱期に大きな影響力を持っていた人物です。そのため、挙直は幕末から明治維新という激動の時代を、まさにその中心部で生き抜いたことになります。

挙直は、斉昭の従弟にあたる土浦藩十代藩主土屋寅直の養子となり、1868年、寅直の隠居に伴い家督を継承しました。この時点で、日本の政治体制は大きな転換期を迎えており、挙直は新たな時代の波に揉まれながら、藩主としての役割を果たさなければなりませんでした。同年、従五位下・相模守に叙位・任官しています。

1869年、版籍奉還により土浦藩知事に任じられましたが、わずか2年後の1871年、廃藩置県によってその地位を失います。廃藩置県は、日本の政治構造を根本から変える出来事であり、多くの藩主が職を失いました。挙直も例外ではなく、失職後は東京に移り住み、内務省御用掛や勧農局事務取扱役などを務め、下総牧羊場でも働きました。

しかし、挙直の活躍は、これらの役職に留まりませんでした。全ての公職を辞した後、彼は旧藩士たちの生活支援に尽力します。多くの士族が廃藩置県によって生活に困窮する中、挙直は農地開発や開拓を積極的に推進しました。特に、旧藩士たちが始めた「樹芸社」の開墾事業（現在の石岡市）を援助し、自らも土屋農場を経営するなど、その行動力は並々のものではありませんでした。

こうした功績が認められ、1884年には華族令の公布に伴い子爵に叙せられます。これは、明治政府による新たな身分制度の中で、挙直がその能力と貢献によって高い地位を得たことを示しています。

しかし、彼の生涯は41歳という若さで幕を閉じます。1892年、わずか41歳でこの世を去りました。短いながらも、激動の時代を生き抜き、藩主として、そしてその後も社会貢献に励んだ彼の生涯は、多くの学びを与えてくれます。

挙直の家族についても触れておきましょう。彼は徳川斉昭の実子であり、徳川慶喜とは異母兄弟の関係に当たります。妻は松平輝聴の娘である光子、そして妾もおり、複数の子女にも恵まれました。その中には、土屋正直、土屋義直といった男子だけでなく、複数の娘がおり、彼らを通じて土屋家はその後も続くことになります。

挙直に関する資料は、いくつかの文献に散見されます。『目で見る土浦・石岡・つくばの100年』、『常総の史蹟と寺々を訪ねる』といった郷土史関係の書籍や、土浦市史編纂委員会の編纂した資料などが挙げられます。また、国立国会図書館やウォルターズ美術館などに、彼に関する資料や遺品が保管されているとされています。これらの資料は、挙直の生涯をより深く理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。

土屋挙直は、単なる藩主としてだけでなく、激動の時代を生き抜き、廃藩置県後の社会にも貢献した重要な人物でした。彼の生涯は、近代日本の形成過程を知る上で重要な視点を与えてくれます。そして、彼の行動力や社会貢献の精神は、現代社会においても学ぶべき点が多くあると言えるでしょう。

もう一度検索