地獄 (1960年の映画)

映画『地獄』の概要

『地獄』は、日本のホラー映画の中でも特に注目を浴びる1960年公開の作品です。監督は中川信夫が務め、新東宝が製作・配給を行いました。この映画は、シネマスコープ方式で撮影され、色彩豊かなフジカラーによって表現されています。上映時間は約101分に及び、特に暑い夏にぴったりの作品として新東宝の興業の一環で定番となっていました。

この映画は、仏教の八大地獄というテーマを基礎に、罪と罰の概念が中心に据えられ、また、西洋思想からの影響も色濃く反映されている点が特徴です。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの『ファウスト』やダンテ・アリギエーリの『神曲』に見られる地獄のイメージが本作にも取り入れられており、文化の交差点として、東西の思想が融合した作品として捉えることができます。

ストーリーのあらすじ

物語の主人公、清水四郎は仏教系の大学に通っており、教授の娘である幸子と婚約していますが、同窓生の田村にしつこく付きまとわれています。田村の誘惑から逃れようと試みる四郎ですが、その過程で次々と罪を重ねてしまいます。悲劇的な出来事が訪れ、幸子を自動車の事故で失ってしまった四郎は、実家に戻りますが、そこには幸子に似た少女、サチ子がいました。四郎は彼女と恋に落ちますが、田村や、轢き逃げに遭ったヤクザの情婦が復讐に迫り、四郎は彼らとの衝突によってさらに深い闇にはまっていきます。

四郎の父が経営する老人ホームの記念パーティーでは集団食中毒が発生し、悲劇は続きます。復讐を企てたヤクザの母も巻き込み、四郎の運命は地獄へと向かってしまいます。死後、四郎は地獄を体験し、そこで幸子の霊と再会し、彼女が四郎の子を賭けていた事実を告げられます。彼の道は、八大地獄の修羅場へと続いていくのでした。

スタッフとキャスト

この映画には中川信夫自身が企画から脚本まで携わっており、彼の独特の視点が反映されています。撮影は森田守、美術は黒澤治安が手がけ、照明など細部に亘る演出が施されています。キャストには、天知茂が清水四郎役、三ツ矢歌子が幸子とサチ子の二役、また沼田曜一が田村役として出演しており、数多くの俳優たちが物語を彩りました。カメオ出演として新東宝の名優、嵐寛寿郎も閻魔大王役で登場しています。

評価と影響

『地獄』は、公開当初から注目され、1974年には「怪奇映画ベストテン」の23位にも選ばれるなど、評価される作品となっています。また、後にVHSやDVDとしてもリリースされ、2019年にはHDリマスター版のBlu-rayも発売されました。これらは今でも多くのホラー映画ファンに親しまれています。

総括

この『地獄』は、仏教の教義に基づいた恐怖のビジュアル化だけではなく、愛や復讐といった人間の深い感情にも迫る作品です。中川信夫が手掛けたこの怪奇映画は、視覚的な恐怖を超えて、観客に様々な思索を促す要素を持っていると言えます。

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