地蔵院 (福井市)

地蔵院：歴史と信仰が息づく福井の寺院

福井県福井市安原町に位置する地蔵院は、曹洞宗に属する由緒ある寺院です。金剛山を山号とし、越前松平家の祈願所として栄え、古くから地域の人々に深く信仰されてきました。本尊は梅宮大社の祭神を本地仏とする十一面観音で、特に子安観音として広く崇敬を集めており、2月と7月の縁日には、子授け祈願や安産のお礼参りに訪れる人々も多く見られます。

歴史の軌跡：延喜から現代へ

地蔵院の創建は、912年（延喜12年）頃まで遡ります。醍醐天皇の勅命により、藤原利仁が京都梅宮神社の神護一体を東郷槇山山頂に祀った庵が起源と伝えられています。その後、988年（永延2年）に一条天皇の訓令によって庵は山の中腹に移されました。

かつては金剛山那蘭陀尼寺、金剛山那蘭院祥坊といった名称でも呼ばれていましたが、1685年（貞享2年）の『滝谷寺末寺帳』には真言宗滝谷寺（瀧谷寺）の末寺として「地蔵院」の名が確認できます。その後、安永年間（1772～1781）の『越前国寺庵』には「東郷奈良谷寺」と記され、1800年（寛政12年）の『香奠帳』には「地蔵院」と記されるなど、名称の変遷も興味深い歴史を示しています。明治時代初期には曹洞宗に改宗し、現在に至っています。

境内と見どころ：河濯堂と歴史的釣り鐘

地蔵院の境内には、河濯堂や稲荷大明神など、いくつかの建物や神域があります。河濯堂には、河濯、戸隠、秋葉権現が祀られており、毎年7月末には河濯祭りが盛大に行われます。

特筆すべきは、1705年に芝原鋳物師の渡部與三兵衛によって作られた釣り鐘です。鐘には「越前國足羽郡　東郷安原村　地蔵院」「越前州吉田郡　柴原住藤原朝臣　渡部與三兵衛尉」と銘が刻まれています。高さ60センチ、直径36.5センチのこの釣り鐘は、1943年の金属回収令により一時的に回収されましたが、武器の材料としてではなく、東郷地区の火の見やぐらで半鐘として使用されました。その後、1979年から福井市和田東二丁目の市消防本部に保管されていましたが、2014年に地元住民の働きかけにより地蔵院に返還され、現在は大切に保存されています。

交通アクセス

地蔵院へのアクセスは、JR越美北線（九頭竜線）越前東郷駅から徒歩5分と便利です。静寂に包まれた境内では、歴史と信仰の息吹を感じ、安らぎのひとときを過ごすことができます。

参考文献

福井県足羽郡東郷村誌編纂会『東郷村誌』前編 1956年
『近江・若狭・越前寺院神社大事典』平凡社 1997年
『東郷の神社と仏閣』福井市東郷公民館「ふるさとセミナー」、福井市東郷公民館、2012年
『福井市史』（資料編13民俗）福井市、1988年

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