藤原利仁

藤原利仁：平安時代の武将とその子孫、そして伝承

藤原利仁は、平安時代前期を代表する貴族にして武将です。藤原北家魚名流に属し、民部卿・藤原時長の子として生まれました。越前国敦賀の豪族の娘婿となり、坂東地方を舞台に活躍しました。

華麗なる経歴と武勇

左近将監などを経て、延喜11年（911年）には上野介に、翌年には上総介に任じられます。その後も下総介や武蔵守といった坂東の国司を歴任し、地方行政に携わりました。延喜15年（915年）には、下野国高蔵山で起こった大規模な盗賊の乱を鎮圧。数千人に及ぶ盗賊を討伐する武勇をみせ、その名は全国に知れ渡りました。この功績により鎮守府将軍に任じられ、最終的には従四位下まで昇進しました。『鞍馬蓋寺縁起』はこの武勇を記録しています。

中世文学におけるイメージと伝説

後世、藤原利仁は坂上田村麻呂、藤原保昌、源頼光らとともに、中世文学において伝説的な武人として扱われるようになりました。数々の説話や物語の題材となり、平安時代の代表的な武将として広く知られる存在となりました。『今昔物語集』には、五位の者に芋粥を食べさせようと京都から敦賀の館へ連れ帰ったという逸話が収録されており、芥川龍之介の小説『芋粥』の題材にもなっています。一方、『今昔物語集』では、悪路王を攻め、新羅への遠征を命じられたものの、法全阿闍梨の調伏によって狂死したという異なる伝承も存在します。これらの物語は、歴史的事実と伝説が混ざり合った、藤原利仁という人物像を多面的に浮かび上がらせています。

繁栄した子孫と広がる氏族

藤原利仁の子孫は、歴史上大きな影響を与えました。次男の藤原叙用は斎宮頭に任じられ、斎藤氏の祖となりました。叙用の孫の代には、加賀介となった忠頼が加賀斎藤氏、弘岡斎藤氏、牧野氏の祖となり、さらにそこから堀氏、富樫氏、林氏といった多くの氏族が派生しました。また、叙用の孫である為時の家系からは、吉田氏、前田氏、吉原斎藤氏、河合斎藤氏、美濃斎藤氏などが生まれました。重光からは加藤氏、遠山氏が派生するなど、その子孫は各地に広がり、多くの氏族を形成しました。さらに、利仁の一女は藤原秀郷の孫にあたる藤原文脩の妻となり、文行、兼光らを生みました。これらからも、藤原利仁の血筋がいかに広く深く、日本の歴史に影響を与えたかが分かります。

伝承地に残る足跡

藤原利仁ゆかりの地には、現在も多くの伝承地が存在し、人々の記憶の中に生き続けています。

福井県敦賀市: 敦賀市には、利仁が豪族の娘婿となって居館を構えたとされる場所や、利仁と菅原道真を祭神とする天満神社（寛和2年鎮座）があります。神社境内には利仁の供養塚とされる石塔（宝篋印塔）も存在します。

栃木県宇都宮市: 宇都宮市関白の関白山神社内には、藤原利仁の墓と伝わる石塔があります。延喜12年（912年）、高座山（たかくらやま）の盗賊鎮圧後、病に倒れて亡くなったという伝説が残っており、関白山神社（元は高座山神社）は利仁を祭神としています。

* 埼玉県東松山市: 東松山市下野本にある野本将軍塚古墳には、延長元年（923年）創建の利仁神社があります。古墳自体は利仁とは関係がないものの、利仁にちなみ「将軍塚」と呼ばれています。神社には利仁の木像と愛用の弁当箱が伝来しています。


これらの伝承地は、藤原利仁の生涯と功績をしのび、歴史と伝説を繋ぐ貴重な場所として、人々の心に刻まれています。藤原利仁は、武勇だけでなく、多くの後裔を残し、日本の歴史に大きな足跡を残した人物と言えるでしょう。

もう一度検索