地黄煎

地黄煎（じおうせん）は、アカヤジオウの根を煎じた生薬であり、またそれを加えて練り上げた日本の飴を指します。江戸時代には、特に「下り飴」という名称でも親しまれていました。

歴史

地黄の根には、古くから補血、強壮、止血の効果があることが知られており、『神農本草経』にもその効能が記されています。日本では、地黄は春の女神である「佐保姫」の別名でも呼ばれていました。

平安時代には、宮内省典薬寮が「供御薬」という宮中行事において、毎年旧暦11月1日に地黄煎を調達していました。このことが、地黄煎の栽培・販売に関わる人々の身分形成に繋がります。典薬寮を後ろ盾に、地黄煎の販売特権を持つ「地黄煎商売座」という座が形成され、その販売者は「地黄煎売」と呼ばれました。主な産地は摂津国、和泉国、山城国葛野郡でした。

中世の地黄煎売は、番匠（大工）が被るような粗末な竹皮製の笠を被り、小型の桶を棒に吊るして売り歩くスタイルでした。室町時代末期の1494年（明応3年）に編纂された『三十二番職人歌合』には、糖粽（とうそう）を売る「糖粽売」と共に「地黄煎売」が登場し、「飴売」の一種として認識されていました。

江戸時代にも、飴としての地黄煎は製造・販売され続けました。井原西鶴の『世間胸算用』（1692年）には、夜泣きに効くとして「摺粉に地黄煎入れて焼かへし」という記述が見られます。加賀藩の資料（1661年）によると、石川県金沢市泉野町付近には「地黄煎町」という旧町名が存在しました。『本朝食鑑』（1695年）には、膠煎（じょうせん）として紹介され、一般に「地黄煎」と呼ばれていると記されています。また、『和漢三才図会』（1712年）では、膠飴（じょうせん）と餳（あめ）の違いについて、膠飴は琥珀色、餳は白色であり、煮詰めて練り固めて製造する膠飴の中でも、特に切ったものを「地黄煎」と呼ぶと説明されています。

このように、地黄煎は古くから薬としての効能が知られ、時代とともに人々の生活に根付いた日本の伝統的な飴でした。

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