坂下 (板橋区)

板橋区坂下：歴史と文化が織りなす街並み

東京都板橋区の北部、新河岸川沿いに位置する坂下は、一丁目から三丁目まで続く、住居表示が整備された町名です。古くからの歴史と近代的な開発が融合した、多様な顔を持つ地域となっています。

地理と歴史

坂下は、北に新河岸川、西に蓮根、南西に相生町、南に志村、東に東坂下と隣接しています。国道17号（中山道）が町域の東端を貫き、南北に細長い形状をしています。

江戸時代から明治時代にかけては、清水坂から戸田の渡しに至る街道筋に沿って小集落が点在する地域でした。しかし、1923年の関東大震災以降、化学や薬品系の工場が次々と建設され、太平洋戦争中は軍需工場として重要な役割を果たしました。現在も北部の三丁目地域には、化学関連の企業や工場が多く集積しています。近年では、工場跡地へのマンション建設も進められています。

一方、南部の一丁目と二丁目は住宅地が中心で、学校や公園、公営住宅などが整備され、静かで住みやすい環境が形成されています。

地形と地価

荒川低地の沖積層からなる坂下は、全域がほぼ平坦な地形です。2024年1月1日時点の公示地価は、一丁目で40万7000円/m²、三丁目で39万2000円/m²と、比較的高い水準にあります。

歴史の変遷

廃藩置県以前は、武蔵国豊島郡蓮沼村（後に本蓮沼村）と根葉村の一部でした。中山道沿いの集落以外は、志村の原と呼ばれる葦や萱が生い茂る低湿地が広がっていました。この地域は将軍の鷹狩場としても利用され、歴史的な背景を感じさせる場所です。

17世紀前半には、荒川洪水の被害を受け、氷川神社と南蔵院が高台に移転しました。従来は享保9年（1724年）の水害による移転とされていましたが、より古い絵図から、17世紀半ばまでには移転が完了していたと考えられています。

1717年、徳川吉宗による鷹狩の再開に伴い、この地域を含む志村の原は「戸田筋」に指定され、1718年には吉宗による鷹狩が行われました。

1862年には蓮沼村が上蓮沼村と本蓮沼村に分村し、坂下は本蓮沼村となりました。その後、明治時代の市制町村制施行、東京府への編入、板橋区発足を経て、現在の町名となりました。

1921年には新河岸川の流路変更工事が行われ、1925年には関東大震災後の都市計画により、化学薬品工場の設立が可能となりました。このことが、坂下の工業発展に大きく影響を与えました。

1966年には住居表示が実施され、町域が再編されました。また、同年には都電志村線が廃止され、1968年には都営地下鉄三田線が延伸し、蓮根駅と志村三丁目駅が開業しました。

地名の由来

坂下という地名は、清水坂（志村坂、隠岐坂、地蔵坂とも呼ばれる）の下にあることに由来します。旧名の「志村長後町」は、北豊島郡志村大字本蓮沼の字名から採られたものです。

交通と施設

坂下には鉄道駅はありませんが、都営地下鉄三田線の蓮根駅と志村三丁目駅が利用可能です。また、国際興業バスが運行しており、周辺地域とのアクセスも良好です。

町内には、板橋区役所蓮根区民事務所、学校、公園、商業施設などが充実しており、生活利便性が高い地域となっています。また、DIC株式会社の本店と東京工場なども立地しています。

歴史的な史跡として御成塚があり、徳川吉宗が鷹狩りの際に築造させた螺旋状の築山は、当時の様子を偲ばせる貴重な遺構です。

まとめ

坂下は、歴史と近代的な開発が共存する、魅力的な町です。静かな住宅地と活気のある工業地帯が隣接し、便利さと落ち着きを両立させた生活環境が特徴です。今後も、歴史と調和した発展が期待される地域と言えるでしょう。

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