坂本義和

坂本義和：戦後日本の平和と国際政治を問いただした政治学者

坂本義和（1927年-2014年）は、日本の国際政治学、平和学の分野をリードした著名な学者です。東京大学名誉教授、国際基督教大学平和研究所顧問を務め、戦後日本の進歩的文化人の代表格として、学術研究のみならず、活発な社会評論活動でも知られました。

ロサンゼルス生まれ、東大教授へ

坂本義和は、東亜同文書院教授であった坂本義孝を父に持ち、アメリカ合衆国ロサンゼルスで生まれました。幼少期を上海で過ごし、その後日本に移住。東京高等師範学校附属中学校（現・筑波大学附属中学校・高等学校）を経て、旧制第一高等学校から東京大学に進学しました。東大では、著名な思想家である丸山真男氏のゼミに所属し、研鑽を積みました。1951年に東京大学法学部を卒業後、助教授を経て、1964年から1988年まで同大学法学部教授として国際政治学を担当しました。

国際的な視点と平和主義

1955年にはシカゴ大学に留学し、リアリズムの代表的学者であるハンス・モーゲンソウ教授に師事しました。モーゲンソウの影響を受けながらも、坂本は独自の平和主義的な立場を貫き、アメリカ一辺倒ではない国際政治への視点を提示しました。特に戦後冷戦期には、高坂正堯氏や永井陽之助氏らと活発な論争を繰り広げ、「アイデアリズムとリアリズムの論争」の中心人物の一人となりました。

坂本氏の国際政治への見解は、単なる理想論にとどまらず、現実的な外交戦略と深く関わっていました。日米安保条約や憲法9条についても、単純な肯定や否定ではなく、国際社会における日本の役割を踏まえた上で相対化を試みました。具体的には、国連中心主義に基づく自衛隊の国際貢献を主張するなど、独自の立場を展開しました。

鋭い批判と論争

学術研究のみならず、社会問題への発言でも知られた坂本氏は、北朝鮮による日本人拉致問題においても、独自の視点からの発言を行い、激しい論争を巻き起こしました。拉致被害者への同情は示しつつも、食糧支援の必要性を強調するなど、人道的な視点からの意見を表明したことが、保守派や一部のリベラル派から批判を浴びる一因となりました。

その他にも、柳美里氏の小説をめぐる裁判での支援、国連人権委員会の「従軍慰安婦」問題に関する決議への批判、韓国大統領による天皇謝罪要求発言への反論など、常に時代の重要な課題に発言を続けました。これらの発言は、常に論争を巻き起こしましたが、日本の歴史認識や国際社会における日本の責任、平和構築に向けた課題など、日本の将来を考える上で重要な示唆を与えてくれるものです。

多彩な著作活動

坂本氏は数多くの著作を残しており、その内容は国際政治学、平和学の基礎的な問題から、日本の安全保障政策、歴史認識問題まで多岐に渡ります。代表的な著作としては、『核時代の国際政治』『平和――その現実と認識』『軍縮の政治学』『地球時代の国際政治』などがあり、これらは現代でも重要な文献として読まれ続けています。また、編著書や共著も多く、国際的な学術交流にも貢献しました。

まとめ：平和への道標

坂本義和氏の生涯は、学術研究と社会評論を一体として、平和と国際協調への道を模索した、まさに知の探求者の生涯でした。常に時代を先取りし、鋭い洞察力と勇気をもって発言を続けた氏の功績は、現代日本社会を考える上で、今後も重要な指標となるでしょう。彼の著作を読み解くことで、戦後日本の歩みと、平和な未来へ向けた課題を深く理解することができます。

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