坂田昌一

坂田昌一：素粒子物理学の先駆者

坂田昌一（1911年1月18日 - 1970年10月16日）は、日本の理論物理学者であり、素粒子物理学の発展に多大な貢献をしました。名古屋大学教授を務め、湯川秀樹、朝永振一郎と共に、日本の素粒子物理学を世界的なレベルに押し上げました。

生涯と業績

坂田昌一は東京で生まれ、旧制甲南高等学校を経て1933年に京都帝国大学理学部物理学科を卒業しました。その後、理化学研究所、大阪帝国大学講師、京都帝国大学講師を経て、1942年に名古屋帝国大学教授に就任しました。

二中間子論

1942年、坂田は井上健と共に、核力を媒介する中間子と宇宙線中に発見された中間子の違いを説明するため、二中間子論を提唱しました。この理論は、1948年にπ中間子が発見されたことで実証され、坂田の名を世界に知らしめることとなりました。

混合場理論（C中間子理論）

1948年、井上健、高木修二、原治と共に、量子電磁力学における電子の質量発散問題を解決するために、凝集力場 (cohesive field) という新しい場を導入する混合場理論（C中間子理論）を発表しました。この理論は、質量の発散を打ち消すものの、真空偏極の発散を解消できないことが後に判明し、朝永振一郎の繰り込み理論によって解決されました。

坂田模型

1955年、坂田は、中性子・陽子・ラムダ粒子を最も基本的な粒子とし、他のハドロン（強い相互作用をする粒子）はこれらの素粒子とそれらの反粒子から構成されるとする坂田模型を発表しました。この模型は、基本粒子を増やした名古屋模型（1960年）および新名古屋模型（1962年）へと発展し、一定の成果を収めました。しかし、その後、マレー・ゲルマンらのクォークモデルが登場したことで、坂田模型は否定されることとなりました。坂田自身はクォークモデルを全面的に支持し、提唱者であるゲルマンがクォークモデルを仮定の理論としたことに批判的でした。

PMNS行列

1962年には、牧二郎、中川昌美と共に、ニュートリノ振動を予測するポンテコルボ・牧・中川・坂田行列（PMNS行列）を発表しました。PMNS行列は、ニュートリノ質量の混合と振動を記述する上で不可欠なツールとして、現代のニュートリノ研究において重要な役割を果たしています。

ノーベル賞とその後

坂田模型は、ゲルマンとツワイクのクォークモデルに影響を与えましたが、1969年のノーベル物理学賞はゲルマンのみに授与されました。ノーベル物理学委員会のメンバーであるイヴァー・ウォーラーは、坂田が受賞できなかったことに遺憾の意を表明しています。坂田は1970年に湯川秀樹の推薦で西島和彦・中野董夫とともにノーベル物理学賞候補となりましたが、この年10月に逝去しました。

無限階層論

坂田は、クォークは階層の一つに過ぎず、さらにその下部構造が無限に存在するという物質の無限階層論を提唱していました。この思想は、現代の素粒子物理学における階層構造の探求にも影響を与えています。

国際交流

1964年には、毛沢東と会見し、毛沢東が素粒子の構造に「層子」という名前を提案したと言われています。

家族

父は内務官僚・実業家・貴族院議員の坂田幹太。妻は信子。弟は原子核物理学者の坂田民雄。長男は原子核物理学者の坂田文彦。次女は坂田千鶴子です。

受賞歴

1948年 - 朝日賞（二中間子の仮説）
1948年 - 中日文化賞（二中間子理論以降凝集力中間子論に至る素粒子の研究）
1950年 - 恩賜賞
1970年 - 従三位勲二等瑞宝章

坂田昌一は、その独創的な発想と先見の明によって、素粒子物理学の発展に大きく貢献しました。彼の業績は、現代物理学の基礎となり、次世代の研究者たちに多大な影響を与え続けています。

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