坊津

坊津（ぼうのつ）

坊津は、鹿児島県南さつま市坊津町坊を中心とする地域で、古くから海上交通の要衝として栄えた港町です。その歴史は古代にまで遡り、遣唐使船の寄港地として、また、倭寇や遣明船、薩摩藩の密貿易拠点として重要な役割を果たしました。美しい景観を持つ景勝地としても知られ、多くの文化人に愛されてきました。

歴史

坊津の歴史は、仏教伝来の黎明期に始まります。538年には、百済に仕えていた日本人の日羅が龍厳寺（後の「一乗院」）を建立しました。この寺の存在が、この地が「坊津」と呼ばれるようになった由来の一つとされています。「津」は船着場や港を意味します。

飛鳥時代から奈良時代にかけては、遣唐使船の寄港地として栄え、「唐の港」「入唐道」とも呼ばれました。754年には、鑑真が6度目の渡航で、近隣の秋妻屋浦（現在の坊津町秋目）に上陸しています。

平安時代末期には近衛家の荘園となり、室町時代には倭寇や遣明船の寄港地として、大陸や琉球、南方諸国との貿易が活発化しました。この頃、一乗院も大いに栄え、島津氏の中国・琉球貿易の拠点ともなりました。1594年には、公家である近衛信輔がこの地に配流され、約3年間を過ごしています。

また、坊津はキリスト教とも縁があります。1549年には、フランシスコ・ザビエルが日本で初めて上陸した地であり、江戸時代には、キリシタン追放令により国を出たペトロ・カスイ・岐部が、ローマで司祭となって帰国した際に上陸した地でもあります。

江戸時代に入ると、主要な貿易港としての地位は長崎に移りますが、薩摩藩の密貿易拠点として、引き続き重要な役割を果たしました。しかし、享保年間には密貿易が取り締まられ、貿易港としての機能は終わりを告げます。その後は、カツオ漁業・カツオブシ産業の地として栄えました。

幕末から明治にかけての廃仏毀釈運動により、一乗院は廃寺となりました。昭和に入ると、隣接する枕崎市に近代的な港が建設され、坊津はさらに衰退しました。

一方で、坊津は景勝地としても知られるようになり、近衛信輔が「坊津八景」を和歌に詠み、歌川広重も『六十余州名所図会』で「薩摩、坊ノ浦、双剣石」を描いています。

名所・旧跡

鑑真記念館：鑑真上陸の地を記念した施設。
坊津歴史資料センター輝津館：坊津の歴史や文化に関する資料を展示。
一乗院跡：現在は旧坊泊小学校となっており、門前に仁王像が残る。
近衛屋敷跡・近衛公園：近衛信輔ゆかりの地で、近衛文麿による碑が建立されている。
倉浜荘：密貿易商人の屋敷が残る。
鳥浜屋敷：密貿易で栄えた豪商の屋敷。
石畳：寺田旅館から鳥浜屋敷周辺には古い石畳が残る。
坊ノ岬灯台：坊津の南西端に位置する灯台。
坊ノ岬沖海戦慰霊碑：坊ノ岬沖は第二次世界大戦中に戦艦大和が撃沈された海域であり、慰霊碑が建てられている。

関連項目

旧坊津町：かつて川辺郡に属していた町。2005年に合併して南さつま市の一部となった。
日本国指定名勝の一覧

参考文献

角川日本地名大辞典編纂委員会『角川日本地名大辞典 46 鹿児島県』角川書店、1983年。
坊津町郷土誌編纂委員会『坊津町郷土誌 下巻』坊津町郷土誌編纂委員会、1972年。

外部リンク

坊津 - 国指定文化財等データベース（文化庁）
* 坊津歴史資料センター輝津館(南さつま市)

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