垂直カルダン駆動方式

垂直カルダン駆動方式は、電車のモーター駆動方式の一種で、カルダン駆動方式の特殊な形態です。1954年に日本の電機メーカー神鋼電機（現・シンフォニアテクノロジー）によって開発されました。しかし、現在では一般的ではなく、実際に使用された例もほとんどありません。

基本構成

垂直カルダン駆動方式の基本的な構造は以下の通りです。

台車: 車軸が垂直方向に揺動する特殊な形式を採用します。
モーター: 台車枠の中央部に垂直に固定して搭載されます。一部の例では、アウトリガーを用いて台車枠の外側に寄せて搭載されることもありました。
駆動機構: モーター軸からの出力ギアが、車軸直上に固定されたギアを駆動します。さらに、伸縮可能なスプラインシャフトとベベルギア（傘歯車）を介して、直下の車軸を駆動します。

走行中、駆動装置に対する車軸の偏位は垂直方向に集約されます。このため、垂直軸の伸縮を許容するスプラインシャフトが主な偏位吸収の役割を果たし、通常のカルダン駆動方式で用いられるカルダンジョイントは不要となります（実際には垂直軸のカルダンジョイント省略には至っていません）。

この方式は全幅を小さくできるため、狭軌鉄道に適していますが、ギア周辺の収納スペースが必要となるため、台車上のスペースが制約されるというデメリットがあります。

開発の経緯

1950年代初頭、日本の鉄道にカルダン駆動方式が導入され始めた頃、大手重電メーカーが採用した方式は、いずれも海外技術の導入によるものでした。そのような状況下で、神鋼電機は、1949年に神戸製鋼所から分離して設立された新興メーカーでしたが、鉄道電装部品分野への本格的な参入を目指し、日本独自のカルダン駆動方式の開発を志しました。

神鋼電機が注目したのは、当時の外来カルダン駆動方式が、標準軌では問題ないものの、日本の狭軌鉄道においてはスペース上の制約が多く、使いにくいという点でした。そこで神鋼電機は、狭軌に最適化されたコンパクトなカルダン駆動方式の開発を目指したのです。

採用例

垂直カルダン駆動方式は、以下の鉄道会社で採用されました。

淡路交通

1953年から運輸省の補助を受け、1954年には淡路交通の協力を得て、同社鉄道線のモハ2008号を垂直カルダン式に再改造しました。この改造では、国鉄のDT10形イコライザー台車を垂直カルダン仕様に改造し、神鋼電機製のTBQ-25形主電動機（56kW）4基を搭載しました。この事例は、既存の台車を流用してカルダン化できるという、垂直カルダン方式のメリットを示しています。しかし、淡路交通での垂直カルダン車はこの1両のみに終わりました。

栃尾電鉄

1950年代当時、日本には762mm軌間の軽便鉄道が多数存在しており、その中には電気鉄道もありました。栃尾鉄道（後の越後交通栃尾線）は、1956年に神鋼式垂直カルダン方式を導入しました。草軽電気鉄道から譲渡されたモハ208号を改造し、神鋼電機TBY-25A主電動機2個を装備した最初の垂直カルダン車となりました。その後、制御車のクハ30号を車体延長し、江ノ島電鉄から譲渡された中古台車を垂直カルダン仕様に改造してモハ211号としました。さらに、1957年以降には東洋工機で新造車モハ212号を製造し、以降モハ213・214号、215号と垂直カルダン車が増備されました。最盛期には、栃尾線の電動車のうち8両が垂直カルダン車となり、この方式の電車をある程度使いこなしていたと言えます。

三重交通

神鋼電機の地元である三重県の三重交通（後の近畿日本鉄道）でも垂直カルダンを導入しました。1958年には、志摩線向けに日本車輌製造製のモ5401号を投入しました。また、1959年には、四日市地区の762mm軌間路線である三重線に、3車体連接車のモ4400形1編成を導入しました。モ4400形は観光輸送に用いられましたが、三重線が1,435mm軌間に改軌されると、北勢線に転用されました。

垂直カルダン駆動の挫折

しかし、神鋼電機の垂直カルダン駆動方式を採用した例は、改造車5両、新造車5両、連接編成1編成に過ぎず、その後この方式が採用されることはありませんでした。その理由は以下の通りです。

新興メーカーの参入困難: 鉄道業界は、長年の取引関係がある大手重電メーカーとの結びつきが強く、新興メーカーが参入しにくい状況でした。
外来方式の普及: 海外技術によるカルダン駆動方式（WN駆動方式など）が普及し、狭軌路線でも使用可能になったため、垂直カルダン駆動方式の優位性が薄れました。
技術自体の問題: モーターを垂直に立てる構造は、油漏れや摩擦の問題が発生しやすく、整備性も悪かったため、鉄道会社に敬遠されました。

垂直カルダン電車の絶滅

垂直カルダン方式で新造された最後の車両は、1963年新製の越後交通栃尾線モハ215号でした。以降、この方式が新規導入されることはなく、神鋼電機の鉄道車両駆動装置市場への参入計画は失敗に終わりました。

現在では、垂直カルダン駆動方式は完全に廃れており、その技術も失われています。しかし、かつて日本の鉄道技術の一端を担った歴史は、記憶されるべきでしょう。

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