堀部政男

堀部 政男

堀部 政男（ほりべ まさお、1936年5月23日 - ）は、日本の法学者である。専門は英米法、メディア法、そして情報法であり、特にプライバシー権や情報公開といった分野における日本の第一人者として広く知られている。一橋大学名誉教授であり、国の個人情報保護委員会の初代委員長も務めた。

人物と業績

堀部政男は、日本における情報法学という新しい学問分野を確立した中心人物である。東京大学大学院で伊藤正己に師事し、その後の研究活動を通じて、情報化社会における個人の権利、特にプライバシー権の保護や、行政情報の公開といった現代社会に不可欠な法概念の提唱とその制度設計に深く関与した。学術研究のみならず、国の法制度の整備においても指導的な役割を果たし、情報公開法や個人情報保護法の制定に尽力した功績は大きい。

長年にわたり、一橋大学や中央大学で教鞭を執り、教育者としても多くの研究者や実務家を育成した。その門下からは、情報法分野を牽引する研究者や、社会の様々な分野で活躍する人材が輩出されている。学界、政府機関、各種団体の要職を歴任し、理論と実践の両面から情報社会における法と倫理のあり方を追求し続けた。

経歴

1936年、栃木県に生まれた堀部政男は、1960年に埼玉大学文理学部を卒業。東京大学大学院修士課程を修了し、1962年には同大学院社会科学研究科基礎法学博士課程を退学した。研究者としてのキャリアは、1962年に東京大学社会科学研究所の助手として始まった。

1966年には一橋大学法学部に着任し、講師、助教授を経て1978年に教授に昇任した。一橋大学では、1994年から1996年まで法学部長および法学研究科長を務め、教育・研究組織の運営にも貢献した。この間、1996年には、彼の主たる研究テーマの一つである「アクセス権」に関する論文で一橋大学から博士（法学）の学位を授与された。

1997年に一橋大学を定年退官し、名誉教授の称号を受けた後も、同年4月からは中央大学法学部教授として教壇に立った。さらに、2004年から2007年にかけては、中央大学法科大学院教授として、法曹を目指す学生の指導にあたった。

学外の活動も多岐にわたる。1982年には、当時一橋大学出身であった長洲一二神奈川県知事のもと、全国で初めての情報公開条例策定に関与し、地方自治体における情報公開の先駆けを作った。国の政策決定においても重要な役割を担い、特に個人情報保護分野では、2014年から特定個人情報保護委員会の委員長を務め、その後の個人情報保護委員会へと改組された組織の初代委員長として、マイナンバー制度導入などにおける個人情報の適正な取扱いを監督した。2018年末に委員長を退任した後も、2019年には一般社団法人日本DPO協会代表理事、2020年には一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構顧問に就任するなど、情報ガバナンスやプライバシー保護の推進に尽力し続けている。

また、日本学術会議会員、財団法人情報通信学会会長、比較法学会理事長、法とコンピューター学会理事長、日本放送協会経営委員会委員長職務代行者、社団法人日本クレジット協会会長など、多数の学術団体や公的機関、業界団体の要職を歴任した。長年の学術及び社会貢献が評価され、2022年には瑞宝重光章を受章している。

主な研究分野と著作

堀部政男の研究分野は、英米法を基盤としつつ、メディア法や情報法といった現代社会に不可欠な領域に特化している。特にプライバシー権やアクセス権といった概念の日本への紹介と理論的深化、情報公開制度や個人情報保護制度の法整備に関する研究は、この分野におけるスタンダードとなっている。

代表的な単著としては、『現代のプライバシー』（岩波新書）、『アクセス権とは何か マス・メディアと言論の自由』（岩波新書）、『アクセス権』（東京大学出版会）、『プライバシーと高度情報化社会』（岩波新書）などがある。これらの著作は、情報法に関心を持つ多くの研究者や実務家、学生にとって基本的な文献となっている。

主な著書

• - 『現代のプライバシー』（岩波新書）
• - 『アクセス権とは何か マス・メディアと言論の自由』（岩波新書）
• - 『アクセス権』（東京大学出版会）
• - 『情報化時代と法』（日本放送出版協会）
• - 『プライバシーと高度情報化社会』（岩波新書）

これらのほか、多数の共編著、翻訳、学術論文があり、日本の情報法学の発展に多大な寄与をしている。

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