堂島米会所

堂島米会所：日本経済史における先物取引の先駆け

堂島米会所は、江戸時代の享保15年（1730年）に大坂（現在の大阪府大阪市北区堂島浜）に開設された米の取引所です。大坂は当時、全国から年貢米が集まる場所であり、堂島米会所は米の所有権を示す米切手の売買を通じて、日本の経済史において重要な役割を果たしました。

堂島米会所の歴史

誕生の背景

元禄10年（1697年）に堂島に米市場が誕生し、江戸幕府が米価対策に苦慮する中で、大坂の米商人が新しい取引方法を考案しました。これが「建物米」を定め、期限内に「延売買」を行うというものでした。その後、米取引の複雑化に伴い、市場の支配人である「米方両替」が登場し、市場参加者の取引を調整しました。

公認と発展

幕府は当初「延売買」を禁じていましたが、享保7年（1722年）に一部を許可し、享保9年（1724年）には空米相場も認めました。同年、大火により大阪の米取引は一時休場となりますが、江戸商人の働きかけにより江戸に「米相場会所」が設立されることになります。これに対し、大坂の商人たちは幕府に訴え、その結果、享保15年（1730年）に堂島市場でのみ「帳合米取引」が公許され、堂島米会所が誕生しました。

天下の台所

堂島には全国の諸大名の蔵屋敷が集まり、米商人も多く集まるようになり、「正米取引（現物取引）」と「帳合米取引（先物取引）」が行われ、米価が決定されていきました。これにより、大坂は「天下の台所」と呼ばれるほど日本最大の市場となりました。

組織と変遷

享保16年（1731年）には米仲買株が許可され、米方年行司が定められました。天保13年（1842年）の「天保の改革」により市場組織は変わりましたが、嘉永4年（1851年）には株仲間が再興されました。幕末には米価が大きく変動し、堂島米会所は幕府の許可を得て「石建米商」を実施しましたが、幕府の財政難により市場は混乱し、機能を失っていきました。

明治以降

明治2年（1869年）に明治政府により堂島米会所は廃止されますが、明治4年（1871年）に再び復活。明治6年（1873年）には「堂島米油会所」となり、後に「堂島米商会所」となりました。明治26年（1893年）には株式会社組織の「大阪堂島米穀取引所」へと組織変更しましたが、昭和14年（1939年）に米穀配給統制法により日本米穀株式会社に吸収され、その歴史に幕を閉じました。

取引方法

参加者

堂島市場には、米切手を売買する「正米商」、延売買を行う「帳合米商」、そして「石建米商」などが参加していました。米仲買は堂島に住み、蔵米の入札を行い、正米方、帳合方、積方のいずれか、または複数を兼ねることができました。また、米方年行司は市場の取締りを行いました。

期間と流れ

取引は春・夏・冬の三期に分けて行われ、午前8時から午後2時まで開かれました。前日の火縄値段を元に始値を決め、午前に正米の取引、午後に立合いを再開し、火縄が燃え尽きた時点の値段を火縄値段として、次回の始値としました。

決済

決済は米方両替で行われ、「帳合米」は現物の受け渡し 없이 差金決済で行われました。

堂島米会所の評価

江戸時代の日本では、米が基軸通貨としての役割を果たしており、堂島米会所は単なる先物取引市場ではなく、為替市場としての機能も担っていました。大阪大学の宮本又郎教授の研究によれば、当時の堂島米会所での取引の約70%がリスクヘッジに有効に機能していたとされています。

アメリカの経済学者マートン・ミラーは堂島米会所を評価し、「（明治政府の）規制さえなければ、日本はこの分野の先駆者になれたかもしれない」と述べています。

現代への継承

株式会社組織の米穀取引所「大阪堂島米穀取引所」の伝統は、現在の堂島取引所に受け継がれており、2024年8月13日から米穀指数「堂島コメ平均」の指数先物取引が行われています。また、大阪取引所は米会所跡地に株価指数先物取引開始30周年記念碑「一粒の光」を建て、その歴史を称えています。

堂島米会所は、日本の市場経済の発展において重要な役割を果たしただけでなく、現代の金融市場にもその影響を残しています。

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