報徳思想

報徳思想とは

報徳思想は、江戸時代後期の思想家である二宮尊[[徳]]（二宮金次郎）が提唱した、経済と道徳の融合を目指す思想です。単なる経済理論ではなく、人間の生き方や社会貢献のあり方までを含めた包括的な思想体系であり、その教えは現代にも通じる普遍的な価値を持っています。

概要

報徳思想の根本は、「経済と道徳は両立しうる」という考え方にあります。単に私利私欲を追求するのではなく、社会全体の利益を考え、貢献することが、結果として自己の利益につながると説きます。この思想は、「盥（たらい）の中の水」に例えられることが多く、他者に与えれば、いずれ自分に返ってくるという考え方を分かりやすく示しています。現代では、公益社団法人である大日本報徳社や、各地の報徳社が中心となり、その普及活動を行っています。

報徳の教え

報徳の教えは、二宮尊[[徳]]が独学で学んだ神道、仏教、儒教などの教えと、自身の農業経験に基づいて編み出した、人が豊かに生きるための知恵です。尊徳は、神仏儒を異なる道から真理に至る道と捉え、それぞれの概念を自由に組み合わせることで、独自の教えを説きました。そのため、報徳の教えは「報徳教」と呼ばれることもありますが、特定の宗教を指すものではありません。

報徳の教えの中心概念は「大極」です。大極とは、すべてのものが未分化な状態、一種の混沌とした状態を指します。人間は大極と常にともにあるものの、自我を持つため、常に大極との関係を意識する必要があります。大極に対して積極的に向かう姿勢を「天道」、消極的に向かう姿勢を「人道」と区別します。

尊徳は、天道に沿って生きる心を「道心」、人道に沿って生きる心を「人心」と呼びました。道心は、私欲を捨て、天の理に従って生きる心であり、人心は、我欲にとらわれた心です。人心に囚われた状態では、人は真の豊かさを得ることができません。道心に従う生き方こそが、真の豊かさを実現する道だと説きました。

ここで重要なのは、道心に従う生き方が、単なる道徳的な理由ではなく、実利的・実用的に説かれている点です。報徳思想は、人心に従えば衰退し、道心に従えば発展するという道理を説いているに過ぎません。

四つの実践要素：至誠・勤労・分度・推譲

報徳の教えの実践は、「至誠」「勤労」「分度」「推譲」という四つの要素から構成されます。

1. 至誠：道心に沿った心の状態を「誠」と呼びます。これは、儒教で言うところの「徳」や「仁」に相当する概念であり、大極に積極的に向かっていく姿勢を指します。至誠は実践の第一歩です。
2. 勤労：至誠の状態で日々の選択を行うことを「勤労」と言います。単に働くことではなく、誠の心で行動することを指します。
3. 分度：勤労によって得たものを、無駄なく消費することを「分度」と言います。贅沢を慎み、必要なものだけを使うことを意味します。けちをすることではなく、至誠から生まれた消費のあり方です。
4. 推譲：分度によって残った剰余を、他者に譲ることを「推譲」と言います。これも単なる贈与ではなく、至誠・勤労・分度の結果として生まれたものを分けることを意味します。

実践としての報徳の教え

報徳思想の根本は、道心を立て、至誠・勤労・分度・推譲を実践することで、物質的にも精神的にも豊かに暮らせるという考え方です。この考え方は単なる理論ではなく、実践を通して初めて理解できるものです。尊徳は、この実践の中で得られる、言語化できない真髄を「見えぬ経をよむ」という言葉で表現しました。また、実践を伴わない知識だけの習得を「たんなる本読み」と戒めました。

参考文献

児玉幸多責任編集編『二宮尊[[徳]]』中央公論社〈中公バックス　日本の名著26〉、1984年4月。ISBN 4-12-400416-8。
児玉幸多「人間と大地との対話」
富田高慶「報徳記」
福住正兄「二宮翁夜話」
二宮尊[[徳]]「三才報徳金毛録」・仕法関係諸篇・書簡・日記
二宮尊[[徳]]口述著、渡邊毅編訳編『二宮翁夜話　人生を豊かにする智恵の言葉　現代語抄訳』福住正兄筆記、PHP研究所、2005年2月。ISBN 4-569-64087-7。
石黒忠篤伝　橋本伝左衛門・日本農業研究所　岩波書店　1969年
日本国憲法とは何か　八木秀次　PHP研究所　2003年　ISBN 9784569628394

脚注

外部リンク

大日本報徳社（掛川市役所のウェブサイト）
「二宮翁夜話」現代語新翻訳（意訳） - ウェイバックマシン（2011年11月23日アーカイブ分）

もう一度検索