勤労の義務

勤労の義務とは

勤労の義務、または労働の義務とは、憲法で定められた勤労や労働に関する義務規定のことです。この規定は、社会主義国だけでなく、資本主義国の憲法にも存在することがあります。しかし、社会主義国と資本主義国では、その規定の意味合いが大きく異なります。

概要

資本主義社会における労働は、倫理的な活動ではなく、労働者が生活を維持するために必要とされる行為と捉えられています。一方、歴史的に見ると、ヨーロッパでは宗教改革の影響から「労働は神聖なもの」という考え方が広まり、労働しないことは神や国家への反逆とみなされることもありました。

経済学者の井手英策氏は、先進国で労働の義務を規定している例は珍しくないものの、勤労の義務を規定している国は日本と韓国ぐらいではないかと指摘しています。

各国の憲法における労働・勤労の義務

労働の義務を規定する社会主義国としては、ソビエト連邦のスターリン憲法や北朝鮮の社会主義憲法が挙げられます。資本主義国では、ヴァイマル共和政時代のドイツのヴァイマル[[憲法]]が該当します。また、勤労の義務を規定している国としては、日本と韓国が挙げられます。

社会主義国の例

ソビエト社会主義共和国連邦憲法（スターリン憲法）
1936年に制定されたスターリン憲法では、第12条に労働の義務に関する規定があります。

朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法
北朝鮮の憲法では、労働は富の源泉として「神聖な義務」と規定されています。ただし、この義務は強制労働を意味するものではありません。

資本主義国の例

ヴァイマル[[憲法]]
1919年に制定されたドイツのヴァイマル[[憲法]]では、第163条第1項に倫理的義務として規定されています。この規定は、労働が社会主義的であるかのようなデマを一般化し、ストライキやストライキを行う労働者への批判を意図したものでした。

勤労の義務の例

日本国憲法
日本国憲法第27条第1項には、勤労の権利と並んで勤労の義務が規定されています。これは、教育・納税と並ぶ国民の三大義務の一つとされています。この規定は、大日本帝国[[憲法]]には存在しませんでした。

この規定の由来には諸説あります。

報徳思想説
二宮尊徳の「報徳思想」に基づき、国民が勤労によって祖国を再建するという発想から提案されたという説があります。

日本社会党修正説
1946年の帝国議会で、日本社会党が憲法研究会の草案を参考に提案したという説があります。この草案には「国民ハ労働ノ義務ヲ有ス」という条文があり、その作成にはスターリン憲法が参照された可能性があるとされています。

政府案では、勤労の義務は明記されておらず、日本社会党の修正案によって現在の規定に近い形になりました。

日本国憲法第27条の内容は以下の通りです。

1. すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2. 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3. 児童は、これを酷使してはならない。


大韓民国憲法
韓国の現行憲法（第六共和国憲法）では、第32条第2項に勤労の義務が定められています。

解釈と意見

憲法学者の宮沢俊義氏は、日本国憲法における勤労の義務は、社会主義体制下の義務とは性質が異なると指摘しています。日本では、私有財産制や職業選択の自由が認められているため、不労所得による生活も可能です。しかし、憲法の精神からすれば、生活のために勤労する必要がない人も、社会のために勤労することが望ましいとされています。

また、日本社会党の鈴木義男氏は、勤労の義務を「道徳的義務」と説明しています。このことから、憲法の規定は精神的・倫理的なものと解釈されるべきと考えられます。

ただし、この規定は強制労働を認めるものではなく、違反者への罰則を課すものでもありません。不労所得や金利生活者の存在も否定していません。しかし、宮沢俊義氏は、不労所得を生活の根拠とすることは「社会国家の理念」に反すると指摘しています。

さらに、自由主義を掲げる国の憲法に勤労の義務を規定するのは不適切という意見もあります。納税の義務を規定していれば、勤勉の精神は十分確保できるという考え方もあります。

革新派と保守派合流説

江橋崇氏は、勤労の義務は、保守派が主張した兵役の義務の代替としての公務への参加義務と、改革派（日本社会党）の勤労の義務とが合流してできたものだと指摘しています。当時の議事録を見ると、労働や勤労に関する義務の挿入に反対した党派はありませんでした。井手英策氏は、当時の日本人の価値観として、勤労の義務を果たした者だけが生存権を保障されると考えていたと指摘しています。

その他の関連事項

ベーシックインカム
現実的に働いていない者の中から、働きたくても働けない者を選別するのは難しいため、ベーシックインカムの議論も生まれています。

* 働かない権利
障害者など、状態悪化防止や重度の障害により労働が困難な人が、あえて労働を拒否する権利という考え方もあります。

まとめ

勤労の義務は、各国の歴史や社会背景によって意味合いが異なり、解釈も多様です。日本においては、憲法の理念に基づき、社会の一員として勤労に励むことが期待されています。

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