堺市史

『堺市史』は、大阪府堺市において1929年3月から1931年3月にかけて刊行された市史であり、当時の歴史学を代表する学者たちが編纂に携わったことで、日本史学史においても重要な位置を占めています。全8巻で構成され、堺市の歴史、文化、社会を詳細に記述しています。

堺市における市史編纂の試みは、明治後期の1902年に「堺史」として始まりましたが、1年で中断されました。しかし、1923年の関東大震災を契機に、市史編纂と史料保存の必要性が堺市当局および市議会の間で高まりました。同時期に大阪市で『大阪市史』の編纂が進められていたことも、堺市における市史編纂を後押ししました。

1924年、堺市は市史編纂部を設置し、法制史の権威である三浦周行を監修に、中村喜代三（後に牧野信之助）を編纂長に迎えました。さらに、小葉田淳、岩橋小弥太、藤直幹、山根徳太郎といった、当時新進気鋭の歴史学者たちが編纂者として参加しました。堺が中世における日本経済の中心地の1つであったことが、歴史学者の関心を集めた要因と考えられています。史料収集は日本全国に及び、広範な資料に基づいて編纂が進められました。

1928年からは、完成した章から順に印刷が開始され、翌年には第1巻が刊行されました。第1巻から3巻までは通史と地理概説を扱い、堺市の歴史的背景と地理的特徴を詳細に解説しています。第4巻から6巻までは「資料編」として、当時の史料原文を翻刻して収録するという、当時としては珍しい形式を採用しました。これにより、研究者は一次資料に直接アクセスすることが可能となりました。第7巻は「別巻」として、人物誌、神社寺院・記念物誌、名蹟誌などを収録し、堺市の文化的な側面を多角的に紹介しています。最終巻である第8巻は、「索引・年表・編纂沿革」に充てられ、市史全体の索引、年表、編纂の経緯がまとめられています。

堺という土地の歴史的重要性に加え、史料の原文をそのまま収録したこと、そして著名な歴史学者が編纂に参加したことなどから、『堺市史』は高く評価されています。自治体発行の郷土史書として、『大阪市史』と並び称される名著として知られています。

なお、1971年には小葉田淳を監修者として、堺市史完成後の堺市の歴史、および市町村合併によって堺市に編入された地域に関する続編全6巻が編纂され、1976年に完成しています。これにより、『堺市史』は堺市の歴史をより網羅的にカバーするものとなりました。

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