塩化水銀(II)

塩化水銀(II)：その性質と危険性

塩化水銀(II)（化学式：HgCl₂）は、水銀の塩化物の一種であり、一般的に昇汞（しょうこう）と呼ばれています。無色または白色の針状結晶で、水にやや溶けやすく、アルコールやエーテルにも溶ける性質を持っています。また、昇華しやすいという特徴もあります。

塩化水銀には、塩化水銀(II)の他に塩化水銀(I)（甘汞、Hg₂Cl₂）が存在します。これらの化合物は毒性において大きな違いがあり、特に塩化水銀(II)は猛毒として知られています。そのため、毒物及び劇物取締法で毒物に指定され、取り扱いには細心の注意が必要です。

塩化水銀(II)の用途

かつては、塩化水銀(II)を水で薄めた溶液である昇汞水が、殺虫剤や消毒液、防腐剤として使用されていました。しかし、その強い毒性ゆえに、現在は使用が禁止されています。

他にも、写真の現像液や、生物学実験における昆虫の無菌飼育（卵の殺菌）、組織固定液（ギルソン液など）の原料として利用された歴史があります。ギルソン液は、エタノールやメタノール、氷酢酸、硝酸、そして塩化水銀(II)を混合した溶液です。

塩化水銀(II)の製造方法

塩化水銀(II)は、水銀または塩化水銀(I)に塩素を付加することで生成できます。また、硝酸水銀(II)と塩酸を反応させることでも得られます。硝酸水銀(II)と塩酸の反応は、以下の化学式で表されます。

Hg(NO₃)₂ + 2HCl → HgCl₂ + H₂O + 2NO₂ + NO

この反応では、塩化水銀(II)と共に水、二酸化窒素、一酸化窒素が副産物として生成されます。生成した塩化水銀(II)の結晶を凝縮することで、高濃度の塩化水銀(II)を得ることができます。

塩化水銀(II)の毒性

塩化水銀(II)の猛毒性は、その強力な腐食性と、タンパク質を変性させる作用に起因します。生物の血液に付着すると、無機水銀がタンパク質と結合し、様々な障害を引き起こします。

皮膚に直接触れるだけでも、皮膚炎や神経系の異常（不眠、異常な発汗、易刺激性など）を引き起こす可能性があります。昇汞水であっても、致死量は0.2～0.4g程度と非常に少なく、誤って少量を摂取しただけでも生命に関わる危険性があります。

歴史における塩化水銀(II)

塩化水銀(II)の毒性は、数々の事件や文学作品にも登場しています。例えば、1932年に発生した坂田山心中事件は、昇汞を用いた心中事件として知られています。また、有島武郎の小説『お末の死』では、主人公の少女が昇汞によって自殺する様子が描かれています。これらの事例は、塩化水銀(II)の危険性を改めて認識させるものです。

まとめ

塩化水銀(II)は、その有用性とは裏腹に、非常に危険な物質です。その強い毒性と取り扱い上の注意点を理解し、適切な管理と取り扱いを行うことが不可欠です。現在では、より安全な代替物質が開発されているため、塩化水銀(II)の使用は極めて限定的です。

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