塵袋

『塵袋』とは

『塵袋』は、鎌倉時代中期の文永末年から弘安4年（1274年-1281年）にかけて成立したとされる問答形式の文献です。これは、片仮名で書かれた類書（百科事典形式の書物）として位置づけられており、著者は不明ですが、和漢の故事や言葉の意味を620条にわたり収録しています。内容は、天象や神祇、地域情報、植物、動物、人間社会、仏教儀礼、生計に関する知識など多岐にわたり、全体で24部に分かれています。

構成と内容

本書は、以下のように多様なテーマに分かれています。巻一では天象や神祇に始まり、巻二では地理や植物に関する情報を扱い、巻三では草や鳥、巻四では獣や虫の知識、巻五で人倫、巻六で人体や人事、巻七では仏事や宝貨、衣服や楽器、巻八で様々な雑物、そして巻九では飲食に関すること、巻十では言葉や表現に、巻十一では畳字に至ります。この形式は、事典というよりも、むしろ包括的な知識を求める人々のために編集された独特の作品です。

唯一の伝本

現存する唯一の写本は、永正5年（1508年）に高野山の学僧・印融によって書写されました。印融は1435年から1519年に生きた僧であり、彼が74歳の時にこの文献を写したものです。この写本は、昭和46年（1971年）に重要文化財に指定され、現在は東京国立博物館に所蔵されています。

著者とその考察

『塵袋』の著者については、様々な学説があります。黒川春村説では菅原、大江、中原といった博士によるものであるとされ、岡田希雄説では観勝寺の真言僧良胤に帰属するという説も存在します。特に良胤説は、彼を『壒嚢鈔』の著者とし、本書とその別名との関連を指摘しますが、文安2年から3年に書かれた『壒嚢鈔』の成立を考慮すると、信頼性には疑問が残ります。

記述の特色

本書には「モロモロノヒガ事ハ一隅ヲマボルニアリ」という一節があり、語源随筆として現代の民俗学的視点を重視していることが明らかです。宮廷の人々が笑う田舎の方言への関心も伺われ、平易で口語的な言葉遣いが用いられています。「ツネノココチ」という表現は、日常の言語や文化を重視した考察を示唆しています。このような視点は、特に子ども向けの内容としての特徴もあり、教育的な意図があったことが考察されるでしょう。

後世への影響

『塵袋』は、文安3年（1446年）までに成立した『壒嚢鈔』や、天文元年（1532年）までの『塵添壒嚢鈔』に引用され、後の文献にも影響を与えてきました。特に江戸時代以降、学者や文人にとって教養書として重視されました。近現代においては、柳田国男が本書に言及したことが知られています。

参考文献

大西晴隆 木村紀子校注 『塵袋 <1><2>』平凡社 <東洋文庫723 725>、2004年。
塵袋 - e国宝

本書は、時代を超えて知識の蓄積とその利用について考える貴重な資料であり、その文献学的価値は今なお研究者の注目を集めています。

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