境野哲

境野哲：仏教史学者、運動家、そして東洋大学学長

境野哲(さかいの さとる/さとし、1871年9月26日 - 1933年11月11日)は、明治から昭和初期にかけて活躍した、日本を代表する仏教史学者であり、熱心な仏教運動家でした。真宗大谷派の僧侶でもあった境野は、中国仏教史を専門とし、その深い知識と鋭い洞察力で、日本の仏教学界に大きな足跡を残しました。

宮城県仙台市太白区の出身である境野は、東洋大学の前身である哲学館を卒業後、同大学の教授に就任。並行して、駒澤大学の前身である曹洞宗大学でも教鞭を執るなど、教育者としての活動にも精力的に取り組みました。

境野は、単なる研究者や教育者としてだけでなく、社会活動にも積極的に参加しました。新仏教同志会の中心メンバーとして、1900年から1915年にかけて刊行された雑誌『新仏教』の編集にも携わり、禁酒、禁煙、廃娼といった社会改革運動にも尽力しました。また、1894年には鷲尾順敬や村上専精らと共に仏教専門誌『佛教史林』を創刊し、仏教研究の振興にも大きく貢献しました。

学術面での貢献も著しく、1918年には東洋大学学長に就任。東洋大学出身者として初めて学長に登り詰めたことは、彼の学力と人望の高さを示すものでした。しかし、1923年に発生した学内紛擾事件、いわゆる「境野事件」により、文部省から認可取消処分を受け、学長職を辞任せざるを得なくなりました。この事件は、彼の生涯における大きな転換点となりました。

学長辞任後も、境野の研究活動は衰えることはありませんでした。1926年には駒澤大学教授に就任し、1930年には『随唐以前ニ於ケル仏教ノ変遷』により文学博士号を取得。その研究成果は、多くの著作に結実しました。主な著作には、『支那佛教精史』『支那佛教史講話』『支那の佛教』『印度支那佛教小史』『日本佛教小史』『日本佛教発達概観』『天台四教儀講話』など、中国や日本の仏教史に関する重要な研究書が含まれています。さらに、『宗教の門』のような仏教信仰に関する一般向けの作品や、『佛教論理學』（村上専精との共著）、『宗教の本性』『アメリカより日本の女へ』といった幅広いテーマを扱った著作も残しています。また、『模範佛教辞典』の監修にも携わるなど、仏教研究の発展に多大な貢献を果たしました。

境野哲は、単なる学者という枠を超え、仏教の普及と社会改革に情熱を燃やし続けた人物でした。「境野事件」という苦い経験を経ながらも、彼は生涯を通して仏教研究に打ち込み、後世に多大な影響を与えました。彼の業績は、現在も日本の仏教学界において高く評価されています。彼の墓所は、東京都文京区の真浄寺にあります。

主な業績

東洋大学教授、学長
駒澤大学教授
新仏教同志会の中心メンバー
雑誌『新仏教』『佛教史林』創刊
禁酒・禁煙・廃娼運動
『支那佛教精史』など多数の著作
『模範佛教辞典』監修

関連事項

境野事件
東洋大学
駒澤大学
新仏教同志会
村上専精
*鷲尾順敬

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